２０歳の空に希望を込めて｜リアクション

２０歳の空に希望を込めて

「２０歳のつどいかあ……」
　稲積柚春は、書類の中に紛れていた通知のはがきを手に考えていました。
「君、２０歳になったんだっけ？」
　夫のウォルター・Bが驚いた様子で言います。
「僕は早生まれで、まだ１９歳だよ。１９歳も２０歳も一緒に２０歳のつどいって変じゃない？　今は１８歳で成人だから余計わけわかんないね。ワットの時はどうだったの？」
「うーん僕は早生まれじゃないし、日本で成人式には出てないから知らないよぉ」
　苦笑するウォルターに柚春は言います。
「２０歳になってからだと下の学年の子たちと一緒になっちゃうし、ちょっとした同窓会みたいで、このほうがいいなとは思うんだけど……」
　柚春は、ベビーベッドに目をやりました。
　そこには、先月生まれたばかりの娘の香凛が寝息を立てていました。
　一か月健診の結果は母子ともに良好、昼間はメアリ・エヴァンズが助けてくれているので外出できないことはありません。

「香凛を産んだばかりでバタバタしてるし、きっとみんなは振り袖だし。行きづらいって程でもないんだけど……どんな格好で行けばいいのかわからなくて」
「ああ、振り袖は未婚の女子が着る決まりだっけ？」
「うん。でも、避けてるみたいになるのもいやだし……」
　考えこんでいた柚春の瞳に、何か思いついたように光が宿りました。
「そうだ！　こんなときこそ「イギリス式」だよ！」
「えっ？」
「向こうはどんな格好で式典にいくの？　僕に似合うかな、いっそ香凛と合わせてみるのも楽しいかも」
　喜ぶ柚春でしたが、ウォルターは言いにくそうに首を振りました。
「……残念ながらイギリスでは特別な式典はなかったと思うよぉ」　
「そうなの？」
　ちょっとがっかりした柚春の肩に、ウォルターの暖かい手が触れました。
「でも、そんなの気にしないで好きな服を着ればいいんじゃないかなぁ」
　ウォルターの言葉に、柚春はすぐに笑顔になりました。
「ワットが服を見立ててくれるなら、式典に行ってこようかな」
「……それなら週末に見に行こうかぁ」
「楽しみにしてる！」

　生まれる前はベビー用品を買いに一緒に出かけたものですが、産後は病院以外で外出するのは初めてかもしれません。
（一緒に服を見に行くことになったら、自分のことよりワットに似合いそうな物へ目移りしそう。プレゼントしようかな？）
　柚春にとっては、成人は晴れ着を着るものではなく夫と娘と共に祝うものなのでした。

　しかし、その後ネットで調べ始めた柚春は驚きの声を上げました。
「ワット！　成人式では既婚でも振袖着ていいんだって！」
「それはよかったねぇ」
「さすがに成人式のためだけに買うのは大変だから借りようかな……」　
「将来香凛に譲ればいいんじゃない？」
　ウォルターはいたずらっぽく笑います。
「うーん、それはまだだいぶ先の話だしね。香凛が日本で成人式に出るかどうかだってわからないものね」
　着物は体の心配もありますが、母乳パッドを使ったり工夫することはできそうです。
　諦めていただけに、柚春はワクワクしてきたのでした。
（どんなのがいいかな……定番とかじゃなくて僕らしい何かを見つけたいな）

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