２０歳の空に希望を込めて｜リアクション

２０歳の空に希望を込めて

　その日佐和崎紗月と初瀬川理緒は、朝から忙しくしていました。
　20歳の集いの日で、ヘアメイクと借りた晴れ着の着付けをしてもらっていたのです。
　紗月は白地に青が入った晴れ着、理緒は金糸の入った緑の晴れ着でした。
　着付けを終えて顔を合わせた二人は、互いの晴れ着姿を見て。
「理緒ちゃん……綺麗……」
「紗月……ものすごく美人だよ……」
　お互い見とれてしまいました。

　その足で二人はスポーツセンターへ向かいました。
「あの人たちも成人式に行くんだね」
　同じようにおめかしした人たちがスポーツセンターの方へと向かっていて、これから成人式という感じになってきました。
「18歳で法的には成人で、その意味では私たちは「大人」なんだけど……」
　紗月の言葉に、理緒も頷きます。
「あんまり実感ないし変な感じだよね。選挙で投票しに行った以外は、どうにもピンと来なかった。でも成人式を迎えるとなると否応なく大人になったなーって思うよ」
「成人式に出たらいきなり精神的に大人になれるわけじゃないけれど……もうこれで「子供の時間」は終わったってことだよね」
「二十歳からお酒オッケーというと、なんかこれでもう大人って感じじゃない？」
「お酒？」
　そういえばそうだったなと思う紗月に、理緒は笑いかけます。
「いやー、お酒飲んでみたかったんだよね～。でも、明日は仕事なんで今日はお預け。人生初飲酒はしばらくおあずけかよ」
「そんなに急がなくても……でもちょっと残念かもね」
「でも調子に乗って飲みまくって仕事すっぽかしたら話にならないし」
「そうね」　
　飲んでへべれけになる理緒の姿が想像できてしまい、紗月はくすりと笑うのでした。

「ね、会場着いたし写真撮ろう」
　理緒がスマホを取り出し二人で顔を寄せます。
「やっぱり気分が盛り上がってくるね。二十歳で大人になった！　みたいな？」
　はしゃぐ理緒を見ながら紗月は。
（果たして私と理緒ちゃんはどんな大人になっていくんだろう？）
　そんなことをとりとめなく思うのでした。
（……あれ？）
　周囲の男性たちの視線が自分に集中していることに気づいて、紗月は赤面してしまいました。
「紗月ってば何恥ずかしがってんのよ～」
　理緒がからかいます。
（グラドルになって晴れ着どころかもう何百枚も水着で撮影されてるのにさ。でもそこが可愛いんだよね）
　この場でギューッと抱きしめたくなりつつ、それは抑えて受付へ向かうのでした。

「本日は誠におめでとうございます。皆さまは１８歳ですでに成人ではありますが……」
　式典会場で理緒は、来賓の話でうとうとと居眠りモードに入ってしまいました。
『理緒ちゃん、起きて』
　隣の紗月は、そのたびに何度も声をかけたり揺り起こしたりしてハラハラしっぱなしでした。
（結局来賓が何を話ししてたか覚えてないわ）
「……もう終わった？」
　どうにか長丁場の式が終わり、理緒はのんきにそんなことを聞く始末でした。
「もう、理緒ちゃんったら」
「いやー、寝子高以来の長話でつい」

「あっ、理緒、二次会行こうよ！」
　終了後は同級生たちに声をかけられました。
「久しぶりね、紗月ちゃん、元気？」
「ええ、本当に久しぶり」
「明日仕事あるから飲めないけど、二次会行くのはいいよね？」
　そんなふうに理緒に聞かれた紗月は。
（疲れたし二人きりで休みたい気持ちもあるけど……）
　理緒の笑顔を見てはダメとは言えません。
「そうね。遅くならなければ」

　同級生たちと二次会で駄弁りまくる理緒を、紗月は同級生の話に相槌を打ちながら微笑んで見つめるのでした。
（この体験は、一生に一度しかできないのね）
　２０歳の理緒ちゃんの笑顔を目に焼き付けておこう、と思いながら。

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