２０歳の空に希望を込めて｜リアクション

２０歳の空に希望を込めて

「ついに僕も20歳かぁ……なんだか実感わきません」
　倉前七瀬は、一人つぶやきました。
「成人にはもうなってるし、けどまだ学生のままですし、お酒とタバコが許されるようになっただけのような……？」
　大学の飲み会で居酒屋に顔を出したりはしていましたが、お酒は飲んでいません。
　うるさい酔っ払いに囲まれるのはちっとも楽しくありませんでした。

　けれど、もっと静かに飲むのなら悪くはないかもしれません。
「そうだ、せっかくお酒が許される歳になったんやけん、ウォルターさんと一緒に飲みに行きたいです。お誘いしてみます！」
　さっそく七瀬はスマホで検索を始めました。
（ウォルターさん、普段どんなとこで飲んでるんでしょう？　一緒に飲むなら、居酒屋とかじゃなく静かな店がいいです）　

　クチコミをチェックして、落ち着いて飲めるバーをチョイスしました。
そしてウォルター・Bに連絡します。
『ウォルターさん、２０歳になったので一緒に飲みに行きたいです』
　送ったニャインには、『おめでとう！』のスタンプと共に、OKの返事が返ってきたのでした。

　そして当日の夜。
「ここかぁ。なかなかよさそうな店だねぇ」
　ウォルターの感想に満足しつつ、七瀬はカウンターに座りました。
　そして並んだボトルの文字に釘付けになりました。
「ここでも活字中毒なのかい？」
「それもありますが……」
　半分は、何を注文すればいいか迷っているのでした。
「ふむん……。お酒は初めてなもので……オススメありますか？」
　ここは素直に、ウォルターさんやマスターに飲みやすいお酒をチョイスしてもらうことにしたのでした。
「大学の飲み会でも飲んでなかったようだからお酒が嫌いなのかなぁと思ってたよ。真面目なだけだったんだねぇ」
「飲み会でも２０歳前に飲まない人は珍しくないですよ」
　七瀬の答えにウォルターは頷いて、
「マスター、カシスオレンジを２つ」
　と注文したのでした。

「カシスオレンジ、ですか。どうみてもオレンジジュースですが、これお酒なんですか……？」
　届いたグラスの中のオレンジ色の液体を眺め、七瀬は訝ります。
「お酒だよぉ。それじゃ、倉前の２０歳を祝って、乾杯！」
「乾杯！　いただきます」
　グラスを合わせ、七瀬は恐る恐るカクテルに口をつけました。
「……味も、普通のジュースと変わらなくて飲みやすいです」
「気に入ったならよかったよぉ」
「紅茶と割って飲むのもよさそうですね！　他にもオススメありますか？」
「そうだねぇ、カルアミルクとかコーヒー牛乳に近いよ」
「それじゃ次は、それをお願いします」

　そう言ってカシスオレンジを味わっていると、七瀬は少し頬が熱くなってくる気がしました。
「こうやって、ウォルターさんとお酒が飲める歳になったけど」
「うん？」
「僕ってちゃんと大人になれているんでしょうか？　何も変わってない気がするんですよねぇ」
「急に変わるものでもないからねぇ」
「まぁ、僕は僕らしく。ゆっくり大人になっていこうかなぁ〜、なんてのん気すぎるかな？」
「いいと思うよぉ、焦ることはないよ」
　微笑むウォルター。

「ウォルターさん、また一緒に飲みに行きましょうね」
　初めてのお酒に、気持ちがいいような眠いような気分の中、七瀬はつぶやいたのでした。

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