サンマチームＶＳマンボウチーム　雪合戦｜リアクション

サンマチームＶＳマンボウチーム　雪合戦

「ガンガンいこうぜ～！」
　大将を倒したほうの勝ち、なのだがどちらの大将にも突くべき弱点があるのがミソである。サンマさんチームの大将、我らが寝子島観光大使の第一人者たる彼は何しろ縦に細長い。的が狭く守るに易いが、足元がいささか覚束なくバランス悪し。加えてアクティブな彼はどんどん前へ出ようとするから、仲間たちは彼を守るのに少々苦労をした。
「サンマさん、まって～！」
　ぱたぱたと駆ける楓は少し年上のお兄さんやお姉さんに手厚くエスコートされつつも、サンマさんを守ろうと必死だ。力いっぱいだが緩い球を投げて応戦している。
「楓、前に出過ぎたらあぶないわ」
　智依子は楓を掴まえ、一つ落ち着かせてから雪玉を持たせるのだが、途端に前へ駆けてゆく。
「あっ」
　気が付いた時には楓の頭にぽこんと、雪玉が当たっていた。
「ふぇ……」
　柔らかい雪だから痛みなどなかろうが、当たってしまった、負けてしまった失敗したというあたりが子供心にトリガーとなったのだろう。楓は大泣きしてしまった。
「楓、大丈夫だから……」
　智依子は慌てて駆け寄り宥めるが、楓は収まらない。周りの少年少女たちもやってきてあやしてくれるのだが、泣き声は大きくなるばかりだった。
「ヘイガール。泣いてる暇はないんだぜぇ～？」
　そのうちサンマさんがやってきて声をかけてくれた。なお敵チームも事情を察したらしく、この隙に一気呵成などというわけでもなく、いさぎよくも一時休戦だ。
　泣きべそ顔の楓がサンマさんを見上げると、彼はその頭にぽんと手を乗せた。
「雪玉に当たったら、一分待って陣地から再出発だ。まだ勝負は終わりじゃないぜぇ～？　俺を守ってくれるんだろぉ？」
「う……うんっ」
　さすが観光大使、子供の扱いも手慣れたものである。楓はぴたり泣き止むと、智依子の手を掴んで素直に自陣へ向かう。
「ありがとう、サンマさん」
　智依子が礼を言えば、彼はニヒルな笑みにウィンクをしてみせた。魚類ながら何と男前なことだろう。智依子は自分も親としてまだまだね、と舌を巻いた。
　勝負が再開したところで、瀬莉がさっそく大胆な行動に打って出た。
「やっぱり中央の雪山を取らないとね。みんな、いくよ～！」
　仲間たちへ声をかけるとおお、と応える。公園の中央、自陣と敵陣のちょうど真ん中にこんもりと築かれた雪山は要だ。そこを確保すれば雪玉の材料となる大量の雪を確保しつつ、小高い場所からフィールドを俯瞰して把握することができる。雪山を盾にして上から投げ下ろせば相手を圧倒することもできるだろう。無論目立つ中央に陣取れば集中攻撃を受けるリスクもあるが、それ以上のメリットがあるし何より、相手に占拠されることは避けたい。
「何とかあそこを取らないと……わっ！？」
「ふふ、考えることは同じってわけね」
　一足先に雪山へ駆け登ったのは、アリサだった。
「悪いけど、勝負事には手を抜けないタチなの。本気で行くわよ！」
「わぁ、大人げない！」
　長身から投げ下ろす雪玉のスピードは避けがたく、瀬莉はどうにかこうにか身を隠すも仲間たちが次々に打たれていく。
　しかし、なにもアリサも大人のパワーで圧倒してやろうというつもりではなかった。この遊びを大いに盛り上げんがためだ。通りすがりとはいえ、マンボウくんチームへ属したのは双方の面子のバランスを汲んでのことであったし、この高飛車な立ち回りもヒール的な役回りを演じて勝負を熱くしてやろうという心づもりが故にだ。
　それを瀬莉が汲んだかどうかは分からないが、ともかく奮起した。
「よーし、負けないよお姉さん！　ぜったいやっつけるんだから！」
「ふふ、その意気♪　さあみんな、迎え撃つわよー！」
「雪山奪取！　とつげーき！！」
「おー！」
　雪玉を抱えた風太も追従し、瀬莉へそれを供給する。
　かくしてアリサの目論見通り、雪山争奪戦は熱く激しく盛り上がり、頑張るあまりに獅子奮迅の活躍を見せる瀬莉はいつのまにやらリーダーとして祭り上げられているのだった。

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