サンマチームＶＳマンボウチーム　雪合戦｜リアクション

サンマチームＶＳマンボウチーム　雪合戦

　なにも公式的雪合戦としてきっちりルールがあるわけでもないし、審判が目を光らせ「そこ、アウト！」などと逐一宣言するでもない。街中の公園で子供たちが集い、始めた何気ない遊びだ。気負うことものめり込む必要もない。
　それはそれとして子どもたちは真剣そのものであった。
「かんなちゃん、あっちあっち！　あっちから来るよ～！」
「おっけ」
　光村千恵と桃井かんなが一斉に投げた雪玉は突撃してくる男の子たちの顔面を見事にヒット。撃退した。
「くそー、女ならやれると思ったのにー！」
「てったい、てったいー！」
　いまひとつ浅慮な男の子たちの弁は幼きが故にだが、子供らのやりとりにはとかくそうしたレッテルが張られがちである。千恵はふんと鼻から息を吐き、得意げに言った。
「女の子だってやれるんだって、見せつけてやろう！　かんなちゃん」
「そだね、千恵ちゃん。あいつらちょっとむかつくし」
　辛辣なかんなには少々苦笑いをしつつ、ぎゅっと握り固めた雪玉を放つ。
　彼らは２チームに分かれ対戦中だ。千恵らのチームの大将は浜マンボウくんで、彼が地面に倒されてしまうと敗北となるルールである。
　人数、戦力はそれぞれに拮抗している。同じくマンボウチームに所属した稲積柚春とウォルター・B、真境名アリサも奮闘中だ。

「ワットと雪合戦っていうと、何か不思議なものとばっかり戦ってた気がする」
「はは、確かにそうかもねぇ」
「でも投げる姿がカッコよくて、見とれちゃったんだ」
　期待されていると知ってか、ウォルターは張り切って雪玉を放つ。モーションはチョークを投げるときのそれだ。雪玉は鋭く飛び寸分違わずにヒットした。柚春も手を叩いて喜ぶが、その背中にぽすんと雪玉が当たった。
「わっ、当たっちゃった！　えっと、『やられた！』って宣言するんだよね。ワット、すぐ戻ってくるからしばらく持ちこたえてて！」
「オッケーだよぉ」
　雪玉に当たると自陣へ戻り、一分待機した後に再度出撃が可能となる。駆けてゆく柚春と入れ替わり、アリサが前線へ滑り込んだ。
「いやー、沖縄出身のあたしにこの寒さは堪えるわねぇ」
　などと言いつつも動きは軽快で、一つ二つ三つと雪玉を投げては百発百中。撃ち抜いてゆく。
　ちなみに勝負は子供たちだけのものではなく、こうして大人も混じって楽しんでいる。アリサは休日の午後に所要あって出かけたところ、かんなや二宮風太といった子供たちに声をかけられ参戦することとなった。彼らはそうして双方にバランス良く戦力を呼びこんでいるためこれが実に白熱しているのだった。
「お姉さん、大丈夫？　寒いなら無理しないで」
「ああ、大丈夫大丈夫！」
　表情に乏しくも心配そうな声をかけたかんなの頭にぽんと頭を置いてやり、アリサは微笑む。
「お姉さん、雪合戦って初めてなのよ。だから新鮮で楽しいわ。さて、やるからには勝つわよ！」
「うんっ」
　かんなから受け取った雪玉を投げ、うかつな敵にぱしんとぶつけた。

　寝子サンマチームには佐藤瀬莉に梓智依子、その娘楓が所属している。
「け、けっこう激しいのね、子供の雪合戦って……楓、大丈夫？」
「だいじょうぶ～！」
　楓が投げたへろへろの雪玉は地面に落ち、その応酬に無数の雪玉が飛んできた。
「わわわ、楓ちゃん気をつけて！」
「ひゃ～」
　瀬莉が少々お姉さん風を吹かせて、楓を気づかってくれているのがありがたく微笑ましい。少し尻込みしていた智依子だが、これなら安心できそうだ。
　あまり運動能力には自信がない瀬莉は後方で、雪玉供給係を担っている。てきぱきと手際よく雪玉を握っては楓や智依子、仲間らに手渡しているが、そんな瀬莉へも向かって雪玉は飛んでくる。
「ちょ、ちょっと！　裏方を狙うのは反則じゃないっ？」
　際どく雪玉を避けて瀬莉は叫んだ。まぁ別段反則というわけでもないのだが、いささかカチンと来たらしく自ら雪玉を取り全力でぶん投げる。不届きな男子小学生の肩口あたりへぽこんと当たり、やられた！　の声が届いた。