ケーキを食べよう！｜リアクション

ケーキを食べよう！

「こないだ入学したと思ったらもうクリスマスかあ」
　朝永真深のつぶやきに、クラスメイトの手島ゆかりが答える。
「1年が過ぎるのはあっという間だね」
　今日はクリスマスイブ。
　真深とゆかりは、真深の自宅でケーキ作りをしていた。

「あの時はこんなに仲良くなれるなんて思ってなかったな。今ではお互いの家へ遊びに行くようになったけど、それでもゆかりはあたしの家に来るのはまだまだ慣れてない感じだね」
　ハンドミキサーで生地をかき混ぜながら真深が言う。
「何度か来てるけど……真深って本当にお嬢だよね」
　ゆかりはフライパンで湯煎しながら生地のボウルを押さえている。
　普段は家政婦さんが使っている台所だが、今は二人だけだ。
　真深の家は星ヶ丘の邸宅で、しかも旧財閥家の流れを汲む屈指の名家で母方も旧華族の家系だ。
　当時何も知らずにやってきたゆかりは、使用人に出迎えられ目を白黒させて驚いていたものだ。
　両親はともに仕事が多忙で、真深は数人の使用人と一緒に暮らしている。
　あの時はぎくしゃくと片言の敬語で返事をするゆかりがおかしくて笑ってしまったが、今は使用人にも普通に返事をして真深とは自然に話せるくらい慣れたようだ。
「生まれたときからこんなだから、よくわかんないよ」
　おしゃべりが弾み、ケーキを作ってるのかおしゃべりしに来てるのかわからなくなっている。
「あ、生地こんな感じかな？」
「待って……えーと、生地がモッタリと落ちて重なるくらい、だって」
　それでもレシピを見ながらああでもないこうでもないと試行錯誤しながらケーキを作るのは楽しい。

「それじゃ、焼くよー。時間は？」
「３０分だって」
　オーブンに生地を入れスイッチを入れると、見計らったように家政婦さんがお茶の支度ができたと声をかけてきた。
「はーい。喉が渇いちゃったから、少し休もうか」
　二人は真深の部屋に行ってお茶を飲みながら、おしゃべりの続きを楽しんだ。
「ご両親は忙しいの？」
「親は仕事で今年も海外出張。帰国は年明け。だから今年はゆかりが来てくれて本当によかったよ」
　家政婦さんたちがいるから一人きりではないけれど、やっぱり家族や友達とはちょっと違う。

　焼き上がった後は型からはずして冷蔵庫で冷ます。
　これがまた時間がかかる。その間にクリームを作った。
「ツノが柔らかく立つくらいの堅さ……誰がツノとかって言いだしたのかしらね」
「そうだね、考えたこともなかった」
「普段ツノなんて見ないじゃない？　こんなもんかな」
　タイマーが鳴り、ケーキを冷蔵庫から取り出す。
「さあ、ケーキにクリームを塗るわよ」
「うまくできるかなあ」
「上手じゃなくていいのよ、手作りの味があるわ」
　クリームを塗った後はクリスマスのデコレーションをしていく。
「えーと、プレートはこのへんかしら」
「サンタさんはよく見えるところがいいわよね」
　またおしゃべりでひとしきり盛り上がった。

「できたー！」
「やったね♪」
　結局出来上がったころには夕方になっていた。
　ケーキと一緒に記念写真を撮っていると、
「お食事の支度ができております」
　家政婦さんが声をかけてくれた。
「あ、記念写真撮ろう！　シャッターお願い」
　家政婦さんにシャッターを頼んで、ケーキと共に二人は写真に納まった。
　エプロンを外して食堂に行くと、家政婦さんがケーキ以外の二人分の料理をすでに作っていてテーブルに並んでいた。
　ケーキも隣に運び、皿に取り分ける。

「「メリークリスマス！」」
　乾杯し、さっそく二人はケーキを食べてみた。
「あ、美味しい」
「……初めて作ったにしては結構イケてるよね」
　二人は顔を見合わせて笑う。
「やったね！」

このページにイラストを設定する