ペンギンになってしまった｜リアクション

ペンギンになってしまった

◆海の空で君を見つける

　桜井ラッセルには密かな願いがあった。
「もれいびになって、子供のころ憧れた『鳥のように空を飛んでみたい』って夢は叶えることができたけど」
　ラッセルは空を見上げる。
「結局使える間にカナリアと猛禽類以外の鳥類にはなれずに、別ベクトルで好きだったペンギンにもなれずに終わっちまったんだよなー」
　金の鍵を握る手だけが、ラッセルの心境を伝えているようだった。
「まあ、なれたらなれたで……ペンギンイメージの前の恋人のこと思い出して何とも言えない気持ちになりそうだけど……」
　それを意識すると妙にむず痒くなる。
「それでも人として好きだし、大事な思い出だ。今の恋も大事にしていきたい俺は、いけない奴なのかなー……」
　そう思うと、どこか心がざわめいた。
　ラッセルはふと、足が誘われたように海の方に歩き出す。
　何故だろう。
　どうしても、その場所が気になって仕方がなかったのだ。
　海にたどり着き、砂浜を歩いていると。
「目線が低……」
　突如、思わぬ視線の変化があった。
「ろっこんが戻った？　いつの間にかカナリアか、他の鳥になっちまったか？」
　一瞬何が起こったか把握できず、ラッセルは慌てて自分の体を確認する。
「これ……！　憧れてたペンギンか！　おお」
　ラッセルはぱあっと目を輝かせた。
「ペンギンで試したい事してみっか。……ペンギンが好きって気持ちは変わらねーしな」
　ラッセルは嬉々として砂浜を進んでいく。
　さらに鳥知識を活かしながら、色々と動いて回る。
「はは、よちよちだ」
　思わず、ラッセルは苦笑する。
「真髄は水の中だよな～。よーし、海にでて泳いでみますか」
　ラッセルは羽を弾ませて海を目指した。
　だが、想像以上に時間がかかってしまう。
「遠いー……！　鳥はショートカットできていいよなぁ。せめて人だったら、もうちっと早く海に着けたのに」
　妙案がないか頭を働せていると、ラッセルの横をペンギンが通りすぎていく。
　どうやら、ラッセルと同じように、ペンギンの姿に変わってしまったようだ。
「お仲間がいるのが救いか」
　そう思うと、不思議と足取りが軽やかになる。
　ラッセルは羽を大きく伸ばし、海を目指して進んでいった。

　ふわりと漂うレモングラスの香りに、ラッセルは瞳を横に向ける。
　海を目指すペンギン達が見えた。
　その中の一羽に目が留まる。
　漂う雰囲気から直感した。
「晴月？」
「やっぱり、ラッセルだ」
　風の精晴月は羽を伸ばして、ぺたぺたと歩み寄る。
「おそろいだー」
「おう。ペンギン、おそろな」
　どうやら、ペンギン同士なら、会話が成り立つようだ。
　会えたことに歓喜しつつ、共に海の中に入る。
（おお！　これが……ペンギンで飛ぶのもやっぱいいな！）
　ラッセルは海の中を飛ぶように自在に泳いでいく。
（宇宙空間を高速で飛んでるようだし、空とはちがう景色があって、障害物やサメとかやっべー奴もいるけど綺麗だ）
　次々に広がる海の眩しさに、感動するばかりだ。
「なあ！　見てくれたか！」
「うん！　ラッセル、すごい！」
　砂浜に戻ると花開くように笑って、晴月はふわりとラッセルにくっついてくる。
　積み重なる思い出がまた一つ増える。
　ラッセルは改めて、今の恋を大事に歩んでいきたいと思う。

　これからも二人で一緒に進もう。
　迷う事なんてないように。

　その想いは、新たな思い出に深く刻まれた。

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