ペンギンになってしまった｜リアクション

ペンギンになってしまった

◆煌めく君とともに

　その日、ブラックウッド邸にて不可解な現象が起こった。
　テーブルの上には、稲積柚春が作った彩り豊かなお菓子。
　柚春が休日、恋人のウォルター・Bと共にティータイムをしていたら突然、二人ともペンギンの姿に変わってしまったのだ。
「これは、いつもの……なのかな」
　柚春は周囲の状況からそう察する。
　この神魂の現象は一時的なものかもしれない。
　だが、これからのことを考えると、何か手を打つ必要がある。
　話し合った結果、ひとまずペンギンについて調べてみる流れになった。
「ワットはペンギンについてどれくらい知ってる？　この姿の時に近寄らない方がいいものとかがわかればいいんだけど」
「そうだねぇ。ペンギンは基本、暑さに弱いから、熱い場所は避けた方がいいんじゃないかなぁ」
　ウォルターは居住まいを正すと、周りを見渡すために背筋をピンと伸ばして見せた。
　だが、ペンギンの姿だときついのか、すぐに元通りに脱力する。
「メアリさんが無事なら……ああでも、会話できるかな」
「うーん、厳しいかもねぇ」
　今はペンギンの姿だ。
　メアリ・エヴァンズに会っても、会話が成立するとは思えない。
「書庫の本や書斎のパソコンで調べる……にも、この手じゃどこまでできるだろ」
　柚春の自分の手をまじまじと見つめる。
　ペンギンの羽では、全ての動作において一苦労だ。
　どうにか、その場から移動することに成功し、まずは書斎に向かうことにする。

　目的地を目指して、広い屋敷の中を二人でヨチヨチと駆け回った。
　進んでいくと、やがて階段が見えてくる。
　ここは難関だ。
　ペンギンにとっては危険のオンパレード、慎重を期する必要があった。
　二人は羽根でバランスを取りながら、階段を上り下りする。
　そして書斎に入ると、パソコンを操作する。
　力加減をしながら、くちばしを使ってペンギンについて調べていく。
　検索した結果、
『ペンギンは、日本人と同じく一夫一婦制』
『離婚率がとても低い』
　……なんて、嬉しい情報があった。
「……これなら、ペンギンになっているのも悪くないかも？」
　柚春は想像してみる。
「もし、水族館でお世話になることになっても、いっぱいのパートナーに囲まれたワットを見なくてすむもんね！」
　柚春は嬉しそうに言うと、ちらりとウォルターの方を見た。
「その心配はなくなったけど……やっぱり僕は、ワットともっと触れあいたかったな」
　これまでの思い出が頭を巡る。
　柚春は心に決めたように、ウォルターに問いかけた。
「ねぇ、ワット。ワットはペンギンになっちゃった僕でも愛してくれる？」
「もちろんだよ」
　――その言葉一つで、喜びがわき上がる。
　愛しさばかりが溢れるから。
　そう思った途端、二人の姿が元に戻る。
　その瞬間、柚春はぎゅっとウォルターを抱きしめて微笑みかけた。

「どんな姿になっても大好きだけど、やっぱりペンギンより動きやすいし、表情もわかりやすい人間のワットがだーいすき！」

　柚春は語りたくて仕方なかったウォルターへの想いを、溢れんばかりに紡いだ。
「なら、一番に想いを伝えに行かなくてはねぇ」
　囁きと共に降った口づけが、柚春の唇を温める。
　いつまでたっても変わることのない恋の熱。
　特別な一日には、特別な出来事を。
　互いを想い合った温もりだからこそ、何物にも代えがたいものだった。

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