ファミレスよ永遠なれ｜リアクション

ファミレスよ永遠なれ

【二人の時間】
　図書館からの帰り道、倉前七瀬は不思議な場所に迷い込んだ。
　そこは「エターナルガーデン」。時間の概念のない永遠にここにあるだけのファミレスだと、店員に聞かされた。
「永遠……ということは、読書なんかしちゃっても大丈夫なんでしょうか？」
　思わず尋ねる彼に、店員はうなずく。
　そこで七瀬は、壁際の席に座って図書館で借りて来た本を読み始めた。
　分厚い本だったが、速読ができることもあって、あっという間に読み終わってしまう。
「ううむ……全然時間が経った気がしないです」
　呟いて、彼は立ち上がった。

　七瀬が向かったのは、ドリンクバーだった。
（せっかくフシギなファミレスに来とるんやけん、何か有意義なことをしたいなぁ）
　などと考えていると、見知った顔を見つけた。寝子高の英語教師、ウォルター・Bだ。
「ウォルターさん、奇遇ですねぇ」
「七瀬」
　声をかけると相手はふり返り、破顔する。
　相席を申し出ると、了承してくれたので、七瀬はそちらの席へと移った。
　その席は窓際で、窓の外にはただ星空だけが広がっている。
　それを見て、一瞬目を見張ったあと、七瀬はウォルターに尋ねた。
「ウォルターさんは、いつからここに？」
「感覚的には昨日からだねぇ。買い物に行こうと外に出て、気づいたらここにいたんだよねぇ」
「突然来てしまう場合もあるんですね」
　ウォルターの話に、七瀬は眉根を寄せて言う。
「七瀬はどうやって来たの？」
　問われて彼は、これまでの経緯を話した。そして尋ねる。
「ウォルターさんは、どうやって過ごしてましたか？」
「スマホで映画を見たり、電子書籍を読んだりしてたかなぁ」
　ウォルターは言って、スマホとサイフぐらいしか持って来なかったからねと笑った。
　それを聞いて七瀬は少し考え、提案する。
「二人でこのお店の全メニュー制覇を目標にして、いろいろ食べてみませんか？」
「いいねぇ」
　ウォルターがうなずく。そこで二人は、ビュッフェへと向かった。

　ビュフェに並ぶ料理をいくつか取ったあと、七瀬は飲み物も持って来た。アイスコーヒーとオレンジジュースとソーダだ。
　彼はそれらを空のグラスに、少しずつ入れて行く。
「こういうの、一度やってみたかったんですよね」
　ワクワクした顔で言って彼は、中身をスプーンで混ぜると口に運んだ。
「これ、案外美味しいです」
　一気に飲み干して言うと、彼はまた別のを持って来た。
　次は緑茶とグレープジュースで、混ぜると不気味な色になる。が、めげずに彼は鼻をつまんで、一気に飲んだ。
「ぷはっ！　案外いけますよ、これ」
　感想の声を上げる彼に、ウォルターは笑う。
　七瀬は他にも、シナモンロールにバニラアイスを乗せて食べては、「うわ、これ最高ですよ！」とはしゃいだ。ウォルターもそれを真似て食べ、「本当だねぇ」と目を細める。

　そんなふうに、最初は調子が良かったのだが。
「うう、苦しい……」
「僕も……」
　さすがに、数が多すぎた。メニューの半分ほどを食べたところで、満腹になった二人は、テーブルに突っ伏して呻いていた。
「外に出て、歩きませんか？」
　ややあって、顔を上げた七瀬が提案する。
「腹ごなしにもなりますし、外の景色を眺めたいです」
　言われてウォルターは、窓の外に目をやった。そこは相変わらずの星空だ。
「賛成だけど、外に出られるのかなぁ」
「それは……」
　言われて七瀬は、答えに詰まる。だがすぐに苦笑して「出てみれば、わかるんじゃないかなぁ」と返した。
　それもそうだとウォルターもうなずき、二人は店を出ることにする。

　会計を済ませて出入口をくぐると、そこには昼間の光景が広がっていた。
　二人は思わず顔を見合わせる。ふり返れば、背後には図書館があった。
　二人は再び顔を見合わせ、苦笑する。そして、とりあえずシーサイドタウン駅に向かおうと、そのまま肩を並べて歩き出した。

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