ファミレスよ永遠なれ｜リアクション

ファミレスよ永遠なれ

【ファミレスぐらし】
　梓智依子はあたりを見回し、夢だと思った。
　娘の楓と一緒に風呂に入って、一緒に床に就いたはずなのに、そこはどう見てもファミレスだったからだ。
　隣を見ると、寝間着姿の楓が眠っている。
　娘だけではない、彼女自身も寝間着姿だった。
（やっぱり夢？）
　彼女が首を傾げた時、楓が起きた。最初は寝ぼけ目だったが、すぐに目覚めて、「ファミレスだ！」と声を上げる。ファミレス好きの彼女は、立ち上がってあたりを見回し、はしゃいだ声を上げた。
　そこに、店員が現れた。
「ようこそ、エターナルガーデンへ」
　言って彼は、ここが時間のない永遠の場所だと説明した。

　店員が立ち去ると、智依子は娘を連れてビュッフェへと向かった。楓にはオムライスを、自分はミートスパゲティを取る。
　席に戻って食べ始めた。
　ふと見ると、楓がこちらを見ている。
「ママのスパゲティ、少し食べる？」
「うん！」
　尋ねると、楓が大きくうなずいた。
「じゃあ、はい」
　智依子はフォークにスパゲティを巻き付け、差し出す。楓は大きく口を開けて、それを食べた。
「美味しい！」
　と満足げな娘に、智依子は笑う。
「オムライス一口、ママに頂戴？」
　今度は智依子が言うと、「いいよ。はい、あ～ん」と楓もオムライスをスプーンですくって差し出して来た。智依子もそれを口で受け、咀嚼する。
「ママ、美味しい？」
「美味しいわ。ママの好きな味よ」
　楓が聞いて来たので答えると、「よかった！」と楓は満面の笑顔になった。

　スパゲティを食べ終えても物足りなくて、智依子と楓は再びビュッフェに向かった。楓がほしがるものを中心に、ハンバーグやカレーなどのほか、甘味類も皿に取って、席に戻る。
　最初と同じく、楓とシェアし合いながら食べるうち、智依子は満腹になった。
（たくさん食べても満腹にならないんじゃないかと思ったけど、そうでもないのね）
　ふと思って、彼女は苦笑する。
　楓はまだ食べられるのか、ゼリーを嬉しそうに口に運んでいた。
　娘から視線をはずし、智依子は窓の外を見る。
（不思議な場所だわ……）
　思わず呟く。そこには、まばゆい星空が広がるばかりで、建物などは見えなかった。

　それから智依子と楓は、そこで過ごした。
　空腹になれば店の料理を食べ、喉が乾けばドリンクバーの飲み物を飲む。
　楓は時おり、探検と称して店内を楽しそうに歩き回ったが、特段問題になるようなことはなかった。
　楓は探検に飽きると戻って来てソファで眠り、智依子はそれを眺めながら外に目をやったり、自分もうとうとと眠ったりした。
　楓と一緒だからか、智依子は少しも退屈することはなく、むしろずっと娘と過ごせることがうれしくてしかたがなかった。それは楓も同じだったようだ。

　そうやってファミレスでの日々は過ぎ――体感的に半年ぐらいが過ぎたか、と思うころ。
「おじいちゃんや、おばあちゃんに会いたい」
　楓がポツリと言った。
　それを聞いて、智依子はああ……と思い出す。父や母のこと、自分の学校や、楓の幼稚園のことを。
「そうね。そろそろ、おうちに帰りたいわね」
　言った途端。ゆらりとあたりの景色が揺れた。

「え……」

　気づいた時には、智依子は布団の中にいた。
　隣には楓がいて、寝息を立てている。
　あたりを見回せば、そこは見慣れた自宅の寝室だった。
（夢を……見ていたの？）
　意識が状況について行けず、彼女は目をしばたたく。
　枕元にあったスマホを手に取って見れば、そこには楓と共に床についてほどなくの日時が示されていたのだった。

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