ファミレスよ永遠なれ｜リアクション

ファミレスよ永遠なれ

【ゲームクリアを目指して】
　ねこぴょんの日から間もなくの春のこと。
　佐藤英二は、ファミレス「エターナルガーデン」で、長編RPGに熱中していた。
　偶然入ったこの店が、時間の概念のないただ永遠にここにあるだけの場所だと説明されて、ならば時間のかかるゲームのクリアを目指してみようと決めた。
　携帯ゲーム機は持ち歩いていたので、ビュッフェからミックスサンドとホットコーヒーを持って来て席に陣取り、ゲームを始めた。

　始めると彼は、すっかりゲームに熱中した。
　その合間に、時々ミックスサンドをかじっては、コーヒーを飲む。
　何度目かに皿に手を伸ばして、英二はそれが空になっていることに気づいた。見れば、コーヒーもなくなっている。
　ゲームは中盤にさしかかったところだった。
（気分転換に、何か取りに行くか）
　英二は胸に呟くと、大きく伸びをして立ち上がった。
　今度はフルーツサンドとコーラを選ぶと、席に戻った。そしてゲームを再開する。
　ゲームは中盤から盛り上がりを見せて、最後の方はたたみかけるような展開になった。ラストは二段構えで、ラスボスを倒したと安心した途端に、そのボスが更に強くなって現れて、英二は焦ってしまった。
　結局、ラスボスとの二度目の戦いに二度敗れて、三度目にようやく勝利した。
　そこから、エンディングのムービーが流れ始める。
　ムービーが完全に終わって、しばし余韻を味わったあと、英二は深い吐息をついた。
（何かすごい偉業を成し遂げた気分だ。……このゲームのエンディングなんて、いつ見られるかわからないって思ってたのにな……）
　胸に呟き、彼は目を閉じてソファの背もたれに身を預ける。なんともいえないやり切った感が胸にあふれていた。

　しばらくして、彼はようやく目を開ける。
　見れば、皿は空っぽになっていた。ゲームに夢中になりすぎていたせいか、英二にはそれを食べた記憶はない。
　コーラの方は半分ほど残っていたので、彼は軽く乾杯の仕草をして口をつける。コーラは少し気が抜けていたが、彼はかまわずそれを飲み干した。
　それから一つ大きく伸びをすると、英二は携帯ゲーム機をカバンに入れて立ち上がる。そのまま、入口傍のレジに向かった。
　会計を済ませたあと、彼はレジに立つ店員に笑顔を向けた。
「今日は有意義な時間を過ごせた。ありがとう」
「ありがとうございます。またお越しくださいませ」
「ああ」
　笑顔で返す店員にうなずいて、英二は渡されたレシートを丁寧にサイフにしまって、店を出る。
　外に出てふと、店がなくなっているかもしれない気がして、彼はふり返った。
　店はちゃんとそこにあったが、何か違和感を感じる。
「あ……！　店名が違うんだ。……そういえば、来た時はどうだった？」
　まじまじと建物を眺めて、違和感の原因に気づいた彼は、呟いた。
　そう、ドアや看板に書かれている店名は、「エターナルガーデン」ではない。
　だが、来た時に店名がどうだったかを、英二は思い出せなかった。
　そこで、さっきサイフにしまったレシートを取り出してみる。そこにはしっかりと「エターナルガーデン」と印字されている。
「夢や幻じゃなかったんだ……」
　それを見て呟くと、英二は顔を上げ、目の前のファミレスを見やった。
「まとまった時間が必要な時に、また来てみよう。中に入ったら、あのファミレスなのかもしれないし」
　うなずいて、「またいずれ」と心の中で声をかけ、今度こそ建物に背を向けて、英二は歩き出した。

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