ファミレスよ永遠なれ｜リアクション

ファミレスよ永遠なれ

【永遠に大丈夫】
　海道千里は、気づくとファミレスの入口近くにボーっと立っていた。
　たしか、徹夜明けで、自室でうつらうつらしていたはずだが、なぜか靴を履いていて、背には重いリュックを背負っている。
「ようこそ、エターナルガーデンへ」
　その彼に、店員が歩み寄って来て、声をかけた。続けてここが、時間の概念のない永遠の場所であることを告げる。
「は！？　永遠のファミレスだって？　マジで？」
　聞いた途端に千里は、眠気も吹っ飛び、店員に詰め寄る。
「一切合切、世の中の全てを解き明かせるぐらい時間使っても『永遠に大丈夫』なんだな？」
「は、はい」
「よし、全部やるか！☆」
　引き気味にうなずく店員にかまわず、千里は大きくうなずくと、奥の席へと歩き出した。

　リュックを下すと、千里は中身をテーブルの上に広げた。
　入っていたのは、医学の専門書やそれ以外の教科書が数冊、それにモバイルPCだ。
「やれること全部やって、兄貴たちやライバルに目にもの見せてやるんだ！」
　彼は叫ぶと、さっそくモバイルPCを起動させた。そして、医学の課題の続きに取り組み始める。
　疲れたら仮眠を取り、気分転換にモバイルPC内のペイントアプリを立ち上げて絵を描いた。気が晴れたら今度は、医学以外の教科の勉強をする。
　そのうち空腹になると、ビュッフェから軽食を取って来て食べた。
　腹が満たされ、やる気も満ちると、再び彼は医学の課題に取り組む。
　その後も彼は、課題をやって仮眠し、気分転換に絵を描いて、医学以外の教科の勉強をして軽食を食べる――という行動を繰り返した。

　そして。
「あー、やりきった」
　何度目かの仮眠明けに、千里は大きく体を伸ばして満足げな声を上げた。だがすぐに苦笑して呟く。
「けどこれって、現実なのかな」
　改めて考えてみると、いろいろと変だ。
　外へ出た記憶はないし、リュックも中身も自分のものだが、用意した記憶がない。
「これが夢だったとしたら、残念だなー」
　せっかく課題も各教科の勉強もやり切ったのに――と呟いて、彼は広げたものをリュックに戻し始めた。
「現実ならそれでもいいけど……そろそろここから出たいな」
　ここを出なければ、そもそも実力発揮もできない。課題も提出できないし、友人の桜井ラッセルにも心配をかけるだろう。これでかなり挽回できたから、しばらくは思い切り友人たちと遊びにも繰り出したい……などと、彼は考える。
　それ以前に、ここにいることに飽きて来てもいた。
　周囲を見回して初めて、彼は他の客の姿に気づいた。しかも、彼らは普通に入口から出入りしている。
「フツーのファミレスと同じなのか？」
　驚きつつも、千里は財布があるのをたしかめ、リュックを背負ってレジへと向かった。
　会計を済ませて入口に立つと、自動ドアが開いたので、千里はためらわずに足を踏み出した。
「出られた。……ってことは、現実か？」
　幾分か拍子抜けしつつ、彼は背後をふり返った。だが、そこにはファミレスの建物はない。
「やっぱり夢か？」
　眉をひそめて前を向くと、彼はいつの間にか自分の部屋の中に立っていた。
　リュックは背負ったままだったが、靴は履いていない。
　さっきまで外にいたはずなのに……と首をひねりながらも、彼はさっそくリュックを下ろして中身を、というよりファミレスでやった課題やら何やらを確認した。
　結果、彼は、全てちゃんと出来上がった状態であることを知る。
「ファミレスは夢でも、オレのやったことは現実ってこと……かな」
　低く呟き、まあいいかと彼は苦笑する。全てやりきったことが成果として残っているなら、なんの問題もないのだと。

このページにイラストを設定する