アンラッキー・ランドを攻略せよ｜リアクション

アンラッキー・ランドを攻略せよ

アンラッキーランドへの招待状、偶然手に入ったそれは、４人まで入場可能だったが、響タルトはあえて１人で行くことにした。
　それはとある噂を聞いたからだ。
（カップルが別れるメリーゴーランド、か）
　招待状は悪い噂で倒産寸前のアンラッキーランドの調査の依頼のようなものだったのだ。
（死人や重傷者が出るわけじゃないみたいだし、僕は楽しいと思うんだけど。カップルが別れちゃうのはまずいかな）
　中々悲しい事態である。推しカプが妙な力の影響で別れたらと思うと複雑な気持ちになる。
　メリーゴーランド周辺は芝生と植えられた草木、そしてキャラクターの立て札が何枚か建てられていた。
　芝生に入って行こうとしたが、絶妙な木の高さで上手く調査出来そうにない。
「しかたない」
　タルトは息をついて、近くの物陰へ。
水筒を取り出してろっこんを発動させる。
（よーし、これなら）
　猫の姿なら低い姿勢にならなくても調査出来る。草木をかき分け、辺りを見回す。
「特に変わったところは……あれ」
　前方に灰色の石像……お地蔵様が草に覆われていた。
　駆け寄って、じっと見つめる。
（こんなところに）
　メリーゴーランドを見つめる形なのが気になった。
「おい、猫又、我の視界を塞ぐでない」
「にゃっ」
　渋めの低い声に猫姿で尻もちをついてしまった。
「まったく。どうやって入ったのじゃ」
　ドキドキしたが、どうやら声の主は地蔵で間違いないらしい。
（ね、猫又。妖怪と間違えられてる）
　かなり複雑だが、話が聞けそうな雰囲気である。
「ん？　妖怪ではないのか」
　どうやら思考を読まれているらしい。
（いや、その、僕はなりたてで。お地蔵様はどうしてここに？）
「ふん。昔からここにおる。周りを固めたのは人間じゃ」

　最初にあったのはお地蔵様で、後から遊園地になったということなのだろう。
「あの……メリーゴーランドに乗ったカップルが」
「ああ、それか。ふん。わしではない」
「なら」
「空を見上げてみれば、何かわかるやもしれんな」
　機嫌を損ねたせいか、それっきり、答えてくれなくなってしまった。
「空」
　目線を上へ。そこにはジェットコースターのレールが通っていた。
「！」
　確か、ジェットコースターにも噂があったはずだ。
　タルトは人間の姿に戻り、向かうことにした。

　ジェットコースター前。
　ここにくるまでに聞いたところ、このジェットコースターでは事故があったらしい。園長に少しだけ話を聞けたのだが、二人で来た男女のうち女性のほうが脱線した際に頭に怪我をして投げ出されてしまったらしい。結末は聞かなかったが、容易に想像できる。
　よく探せば園内に血痕が飛び散っているとかなんとか。かなり怖い話を聞けてしまった。
「すみませーん」
　ジェットコースターのスタッフに声をかける。
「はい、何か？」
　少し暇そうな女性スタッフが表情を引き締めて、返事をした。
「このジェットコースターのレールって園内全体を通っているんですか？」
「ええ、外周を一周するようになっていますよ」
「なるほど」
　タルトは少し考えて、
「事故の時、どの辺で脱線したんですか？」
「トンネルの中から出たところから、ミラーハウス辺りまでのレールね」
「これってもしかして」
　ふと視界の端に犬のブラッキー君の着ぐるみが目に入った。
「！」
　風船を投げ出して、何故か逃げ出す着ぐるみ。
「ちょっとそこのブラッキー君！」
　全力疾走をして、回り込む。
「話、聞かせてもらえますか？」
「な、何もしらない！　ちょっと俺は利用させてしまっただけで！　ラブラブカップルがうざかっただけなんだ！」
　ブラッキー君の中の人のスムーズな自白によって、判明したのは、
「つまり、メリーゴーランドの上をジェットコースターが通ると、メリーゴーランドに乗ってたカップルが分かれることに気付いて、誘導してた、と」
　噂を助長する迷惑な従業員だった。
　分かったことだが、事故によって血痕がついたアトラクションが呪われてしまったということらしい。
　園長は新しいお札を用意すると、言っていた。
　それから数ヵ月後、寝子島に戻ったタルトに届いた知らせ。
「へえ！　リニューアルオープン」
　例の遊園地がＳＮＳでバズって、大盛況らしい。

このページにイラストを設定する