その日、あなたに出会った｜リアクション

その日、あなたに出会った

　綾辻綾花は薄化粧してスーツをまとい、木天蓼大学の入学式会場にいた。
（まだお化粧は慣れないから少しずつ上手になりたいです）
　式の後学生証を受け取り、建物を出ると、サークル勧誘の人の渦に飲み込まれそうになった。
「映画研究会です！　主演女優として映画に出ませんか？」
　カメラを構えた男性に声をかけられ、パンフレットを渡される。
「考えてみます……」
　歩き出すと、さらに別の先輩に声をかけられ。
「かるたサークルです！　袴を着てかるたに挑戦しませんか！」
　声をかけられてはパンフを渡される。そんな中で、
「あら、もしかして平安体験の……」　
　と声をかけられ、綾花は驚いた。
「えっ？」

　しばらくの後、綾花はドキドキしながら早川珪とのデートに向かった。
　今日は休日で寝子高は休みなのだ。
（スーツのままだからちょっと大人な気分です）
「珪さん、入学式終わりました」
　大切で大好きな人だから、珪に会うといつも嬉しい気持ちになる。
（薄くお化粧してるの気付いてくれるかな？）
　そう思っていると。
「今日はとても大人っぽいね。お化粧も上手にできている」
「本当ですか？　よかった」　
「疲れたんじゃない？　カフェかどこかで……」　
「いえ、大学に着ていく服を買いに行くつもりです。珪さんにも選んでもらって決めたいです」
「そう？　僕のセンスで大丈夫かな」
「もちろんです！」
　手をつなごうとする綾花に、珪はためらいを見せるが。
「慣れないヒールの靴で歩きにくいです。手をとって支えてもらえませんか」
　そう言って綾花は珪の手を取った。

（自分で買う予定ですけど、もし珪さんから服をプレゼントされたらドキドキしちゃいそうです）
　いろんな店を回りながら綾花は思う。
（だって「その服を脱がせたい」って意味もあるみたいですし）
　頬を赤らめる綾花を、珪は心配そうに見つめる。
「大丈夫？」
「は、はい！」
「大学だし動きやすい服がいいね。体育はさすがに高校のジャージじゃないほうがいいだろうし」
「……いえ、そうじゃなくて、次のデートで着たいんです」
「デートより、サークルの新入生歓迎会で着る服を考えたほうがいいんじゃないかな。ミニスカートはやめたほうがいいね」
「……まあ、歓迎会にも着れる服ならいいですけど」
　
　自分で会計を済ませた後、綾花と珪はブックカフェに入り本を選んだ。
「あ、新刊が出てますよ」
「本当だ。買っていこうかな」
　綾花がレジへ向かおうとすると、珪は笑顔で手を伸ばしてきた。
「ほしい本があるなら一緒に買うよ」
「え、いいんですか？　ありがとうございます」
「教科書代も結構かかるからね」
（これは「一緒に読みたい」って意味になるんでしょうか）　
　服ではなかったけど、じんわり嬉しい。

　席につくと、綾花は桜のチーズケーキ、珪はコーヒーを注文した。
「大学はどうだった？」
「色んなサークルに誘われてるんですけどまだ決めかねてます」
　もらったパンフレットを鞄から取り出して見せながら、綾花は思い出した。
「迷うぐらいに多いから珪さんの意見も聞いてみたいです……あ、そういえば。こないだ平安体験で着付けをしてくれた人に会ったんですよ」
「それは奇遇だね……古典研究会、これかな？」
「そうなんです。素敵な彼氏がいていいね、って言われちゃいました」
　それには答えず珪は別なチラシを手に取る。
「……こっちは児童文学研究会か」　
「それも楽しそうですよね……古典研究会もですけど、文学部の先生が顧問で」
　入学式の話は盛り上がり、二人は時間を忘れて話し込むのだった。

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