カメラを持って出かけよう｜リアクション

カメラを持って出かけよう

　その日の朝は開放感に包まれていた。春休みである。
　連日のグラドル活動で忙しい日々を送っていたが、ようやくの休みなのである。
　初瀬川理緒は同棲中の恋人、佐和崎紗月と共に朝食を摂りながら、ぼんやりと外を眺めた。ヒラヒラと舞う桜の花びらと青空のコントラストが綺麗だ。
「紗月、今日は外へ行かない？」
「え」
　紗月は窓の外を見る。
「……うん。そうね。天気も良いし」
　理緒はミラーレス一眼を持ち出し、紗月と共に部屋を出た。桜が舞い散っていて、寝子島の空気自体が霞んでいるような。それでいて空は透き通っている。
「はぁ……綺麗……」
　理緒は思わず呟いて、カメラのファインダーを覗いた。立ち止まって桜だけを一枚。
　それに気づいた紗月が数歩先で足を止めて振り返る。
　その瞬間をパシャリ。
「あ」
　紗月は目を瞬かせた。
「良い顔！　何枚か、ここで撮っていい？」
　いつの間にか桜並木に差し掛かっていた。風が桜の木を揺らし、花びらを吹き上げる。まるで映画のワンシーンのようだった。
「うん。どういう感じで撮る？」
「んー……紗月を撮りたいかな」
　にっこりと笑う理緒に対し、不思議そうにする紗月。
「どういうこと？」
「グラドルじゃなくて、いつもの、あたしと一緒にいる時の紗月を撮りたいの」
　目を瞬かせる紗月をパシャリと一枚。
「あっ」
「隙あり！　なんてね。そうそう、そういうきょとん顔も良いわね。グラビアの時は絶対しないような表情」
「理緒ちゃんと一緒にいる時は、自然と顔が緩んじゃうから、ちょっと恥ずかしいけど」
　そこでまた風が吹き上げた。
「風、強いね」
　横の髪を耳にかけながら、空を見上げる紗月を一枚。
「あ、また」
「良いでしょ？　ほらほら、行こ」
　理緒は手を引いて、紗月を引っ張った。

◯

　理緒と紗月は商店街を散歩した後、寝子島ヶ浜海岸近くの店でウィンドウショッピングを楽しんでいた。
「これ可愛い」
　紗月がガラスのペンダントを手にした。その横顔をパシャリ。
「見て？　理緒ちゃんに似合いそう」
　差し出してきたそれは、珍しい、カメラの形をしたペンダントトップだった。
「わ……」
　なんともそそられるデザインだ。一眼レフモチーフだろうか。
「素敵ね。お揃いで買う？」
　笑顔の紗月の提案に理緒は少し考えて、飾られたペンダントを確認する。
（あ）
　ピアノモチーフのそれを見つけた。理緒は息を吐いて首を振る。
「どうかした？」
　紗月が不思議そうにする。
「ううん。なんでも。先に海岸に行ってから決めない？　夕日が綺麗だから」
「そうね」
　店を出て、一度、砂浜に降りることにした。
「綺麗……！　ひゃっ」
　紗月は波打ち際で後退った。波が押し寄せて、飛沫が飛び散る。
「あはっ、冷たい」
　理緒は波と戯れる紗月に何度もシャッターを押した。
「ねぇ、理緒ちゃん」
　ふと、紗月がこちらを見ていた。恐らく、心の底からの笑顔。
「ん？」
「あれ、見て」
　海に沈む夕日がキラキラと水面に反射していて、凄く綺麗だった。
「あ……」
　見惚れたところで、パシャリと音がした。紗月へ視線を戻すと、スマホを構えている。
「ふふ。私も撮りたくなっちゃった」
　見せてくれた写真には、カメラを手に夕日を見つめる理緒が綺麗に映っていた。
「たまにはわたしが撮影しても良いでしょ？」
　お互いにシャッターを切り合うと、笑顔になれた。
　ずっとこのまま一緒にいられたら、どんなに幸せだろう。
　最後に、2人で記念撮影をした。
（ペンダント、どうしようかな？）
　理緒はなんとなくそう思った。

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