カメラを持って出かけよう｜リアクション

カメラを持って出かけよう

　桜の花びらと共に風が巻き上がったところで、不意に写真を撮りたくなった。
　デート中、綾辻綾花は隣を歩く早川珪をちらりと見る。
「どうかした？」
「あ、いえ。今日は天気が良いので、風景の写真を撮るのも良いなって」
「僕も思ってたところなんだ。今日は買い物より、公園とかに行ってみようか」
「！　はい」
　桜が咲いている公園は近くにある。春に咲く花もかなり植えられていたはずなので被写体には困らないだろう。
　パシャリ。
　花壇に生えている菜の花を一枚。珪も同じように菜の花を被写体にしているようだ。他にもたくさんの種類の花をカメラに収めた。
　鮮やかな黄色は眩しいくらい。ちらりとスマホ越しに見ると、珪が菜の花の露を指に乗せていた。柔らかい表情でどきりとした。思わずシャッターを切る。
「あれ、何か良いものあったかい？」
　不思議そうにこちらを見る珪。
「あ、いや、その……」
　思わず、菜の花と珪を撮ってしまった。反射的に体が動いたのだ。
「凄く絵になったから」
綾花は少し恥ずかしそうにスマホの画面を珪に見せる。
「綾辻さん……写真上手いな。僕が僕じゃないみたいだ。キラキラしてて綺麗に撮れてる」
「あの、私から見た珪さんはこんな風にキラキラして見えますよ？」
「うーん、なら僕も。綾辻さんはこんな感じに見えてるんだけどね」
　スマホの画面を見せられた。そこには菜の花に目を輝かせる綾花が写っていた。朝の柔い光、一部が白飛しているが、綺麗だ。
「い、いつの間に」
「あはは。自然な笑顔だから、保存しておこうかな」
　いたずらっぽく言われ、慌てる。
「も、もうちょっとよく見せて下さい、一応、確認を」
　珪のスマホに手を伸ばしたところでら足にツルのような植物が絡まった。
「あっ」
　前のめりにバランスを崩す。
「綾辻さん！」
「ひゃっ」
　珪に体をキャッチしてもらえたものの、そのまま彼に尻もちをつかせる形に。花畑の真ん中で2人仲良く転んでしまったのだった。
「いたた。大丈夫かい？」
「は、はい」
　ふと地面を見ると重なる影がまるでキスをしているかのようで、
「ご、ごめんなさい」
　慌てて体を起こす。
「ああ、大丈夫。でも、視界が低いとまた見え方が違うね」
　確かに目線よりやや下だが、きれいな花畑、香りも相まってふわふわしてくる。
　柔らかい珪の笑顔に、彼の腕を掴む手に力が入った。
「今日のことは二人だけの秘密で」
「ん？」
　綾花は顔を赤くした。
「だって珪さんのこんなに無防備な笑顔見せたら他の人が好きになっちゃうかもしれないから、ダメです」
　珪は苦笑を浮かべた。
「分かった」
　二人でゆっくり立ち上がる。
「じゃあ、続き、撮りましょう」
「そうだな」
　花畑で、笑い合った。

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