寝子島ないない騒動～お米がない！～｜リアクション

寝子島ないない騒動～お米がない！～

　猫鳴館の朝。
　自治会員の月原想花は今日の朝食係です。
（朝早くに起きて人数分の米を炊かなきゃいけない。これがかなりの重労働なんだよね）
　米櫃が空だったので米袋をとりに倉庫へ行った想花ですが。
　米のあるべき場所を見て目を疑いました。
「……米がない？」
「えっ？　昨日まで数日分の米袋があったのに」
　他の朝食係の人も困惑しています。
「どうしよう、みんなの分パンを買うお金もないし……」
「とりあえず、味噌汁とおかずだけでも作ろう」
（でもみんな、それじゃ納得してくれないよね……）
　何て説明したらいいんだろうと、想花は胃が痛む思いでした。

　やがて起き出した寮生たちがぞろぞろと食堂へやってきました。
「あれ？　まだご飯できてないの？」
　ざわめきが起こります。
「どうしたの？　何かあった？」
　先輩に尋ねられた想花は、正直に答えるしかありませんでした。
「米がありません。ごはんなしで玉子焼きと味噌汁だけなら何とか……」
「ええーっ！」
「なんだよそれー！」
　食い意地の張った寮生の面々は、当然のごとく騒ぎだしました。
「外へ食いに行くにも金ねーし」
　貧乏な寮生たちの嘆きの声が上がります。

　色々と騒がしい中で先輩の一人が声を上げました。
「なければ作ればいい！　これから田植えしようぜ！」
「え……？」
（さすがにそれは冗談だよね？）
　と思った想花でしたが。
「よし、田んぼ作ろう！」
　恐ろしいことに冗談ではありませんでした。
　元よりノリの良さは異常な猫鳴館の面々。
　あっという間に役割分担から何から何まで段取りが決まっていきました。

「って、これから田んぼ作るなんていくらなんでも無茶だよ……」
　ぼやく想花に先輩が言います。
「昔、田植えをした先輩がいたからその跡地があるんだ」
　その言葉通り、猫鳴館の敷地の隅のに田んぼの跡が発見されました。
「猫鳴館はなんでもありとは思ってたけど……」
　あっという間に水が引かれ、農家につてがある寮生が苗をもらってきました。
「まさか田植えをすることになるなんて……」
　当然作業に駆り出された想花は、手足を泥だらけにしながら田植えに励みました。
「そこ曲がってるぞ！　まっすぐに植えて」
「……はい」
（腰が痛い……お腹すきすぎて痛いんだかなんだかわからなくなってきた）

　泥を落とし、くたくたになって食堂に戻った想花を、小麦粉を団子にして味噌汁に入れたすいとんが待っていました。
「おいしい……腰の痛みを忘れられそう」
　疲れたけれど、秋の収穫が楽しみになってくるのでした。

このページにイラストを設定する