比都島の日々｜リアクション

比都島の日々

　きぃ～こ、きぃ～こ、自転車のペダルを踏んで、万条花遊は学校へと向かう。
　自転車のカゴにネコ――万条幸次を安全のために乗せ、比都島（ひとじま）の坂道を上がったり下ったり楽しんでいた。
　数分もすればいつもの比都島高校、いろんな学生が歩く中をすり抜けて自転車置き場へと向かう。

「おはよー」
「おはようございます」

　いわゆる陽キャタイプな花遊。同年代の女子生徒達はもちろんのこと、気になる先生や年下の女子生徒にまで幅広く声をかけていく。
　周りからは『節操のないヤツ』なんて言われたりしているが、花遊にはそんなつもりはない。相手はきちんと選んで話しかけているのだ。

（あー今さっき見えた子、可愛かったなー……何組だろ。カラーからして１年？）

　挨拶出来なかった子を見かけた花遊は色々と考えて、とりあえず教室へと向かう。
　今日は移動教室のため、荷物を片手に渡り廊下を歩いていく。

　その途中、中庭が見える。
　ぽかぽか陽気は人もネコも眠りに誘われるようで、中庭の中央ではネコの幸次が丸まってすやすやと眠っていた。

（いいなー。ネコなら勉強だの受験だの心配しなくていいんだからさぁ）

　小さくため息を付きながら、この先の人生を考えてしまう花遊。
　受験勉強、就職活動、仕事……高校を卒業したあとのことを考えると、気が滅入る。
　そんな生活のないネコはとても羨ましいなと思いつつも、さっさと授業を受けておいた。

　放課後は特に何もすることがないため、真っ直ぐ自転車置き場へと向かった花遊。
　既に前カゴには幸次が丸まっており、花遊が帰ってくると大きなあくびをして迎え入れた。

「おっと、ただいま幸次。お前は本当に忠犬ならぬ忠猫だなあ」
「にゃあ」

　軽く撫でられた幸次は一言だけ返し、早く帰ろうと促してくる。
　鍵を外し、花遊もそのまま帰ろうと自転車に乗ったのだが……ある人物を見かけて、そちらへと走る。
　今朝見かけた可愛らしい女子。その子に向かっておーい、と声をかけて……。

「やっほー、オレ３年の万条花遊！　朝見かけたんだけど、ひと目見たときから君のことが忘れられなくてさ」

　唐突に３年生から話しかけられ、驚いた様子の１年女子。
　ぺらぺらと聞いてもないことを喋ってくる男にどうしたらいいのか困惑している様子が見て取れた。
　そんな彼女を救おうとしたのか、のそりと幸次が起き上がって……。

「どう？　今からお茶でｍへぶっ！？」

　するすると花遊の肩に登った幸次はすかさず、花遊の頬に向けて強烈な猫パンチをぶちかます。
　その隙に１年女子はそのままそこから逃げ出し、事なきを得た。

「いてて……おまえ、毎回ナンパの邪魔しやがって……」
「にゃん」
「いてっ！！」

　もう一発猫パンチを叩き込んだ幸次。
　これに凝りたらナンパはもうやめろよな、なんて言葉が聞こえてきたかもしれない。

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