レッツ陶芸チャレンジ！｜リアクション

レッツ陶芸チャレンジ！

◆ポニーテール

「芸術学部は選ばなかったけど、芸術は楽しみたいよね♪」

　響タルトはわくわくする気持ちを抱えて旧市街で行われる陶芸体験会に参加していた。彼女は寝子島高校では芸術科でいろいろな創作は経験したものの、文学部へ進学する。

（これからは授業で創作する機会はなくなっちゃうんだろうな。ちょっと寂しい）

　けれど趣味として楽しむことはできる。そう思った矢先、今回の体験会を知って参加を決めた。彼女は工房のスタッフが丁寧に手順を説明するのに耳を傾ける。その後、各々の作業スペースに移動した。

「さて、何を作ろうかな？」

　湯呑、茶わん、皿、あるいは壺など。色々なアイディアが浮かぶ。

（彫刻的なものも作りたいけど、今回は実用的なほうがいいかな？）

　そのときふと、ある友人のことが思い浮かんだ。

（そうだ、持ち手がポニーテールになってるカップなんてどうだろう？）

　友人はポニーテールが好きなので、渡したら喜ばれるのではないだろうか。

「我ながら良いアイディア！」

　うまくできるかどうかはわからないけど、失敗したら弟に押し付ければいいという算段もあった。やりたいことが決まったので早速作業に取り掛かる。

（ポニーテールを活かせるデザインで、馬のお尻にするか女の子の髪型にするか……どっちでも面白いよね）

　試しに形を作ってみるものの、なんとなく違う気がして何度も修正する。

（うーん、ポニテにボリュームをつけるとカップとしてのバランスとか機能性がいまいち……ここは機能性を大事にするか？　でもそうすると形が……）

　考えるほど迷子になっていく。タルトはいちど土から目を離して視線をあげた。

（あれ？　あの人）

　ふとスタッフと話している志波甲斐斗が目に入った。タルトは彼と面識は無かったが、どことなく見覚えがある気がした。そして、その会話のなかで聞こえた『志波』という苗字からある考えが浮かぶ。
　
（もしかして先輩のお兄さん？）

　それは去年卒業した先輩と同じ苗字。しかし先輩から聞いた印象とだいぶ違う。

（親戚という可能性も？　あとで聞いてみようっと♪）

　そんなことを考えていたら、甲斐斗が他の参加者を見回り始めた。そして彼女の前に通りかかると、すぐさま声を掛けた。

「なにかお困りでしょうか？」
「ポニーテールとカップのバランスがいまいちで……」

　彼女の悩みに甲斐斗は真摯に回答する。言われたとおりに形を整えると機能性を損なわず、それでいてポニーテールの良さが残っている。　

「すごい！　ありがとうございます！」
「どういたしまして」
「ところで」

　タルトは思っていたことを甲斐斗に尋ねる。そこでようやく先輩と甲斐斗がいとこだと知り、一人で納得した。雑談もそこそこに甲斐斗は自分の作業スペースに戻っていった。
　焼く工程は工房のスタッフがやってくれるので、タルトはその様子を眺めていた。そうして焼きあがったカップはきれいな曲線を描いている。

「できたー！　楽しかったよ、志波先生ありがとう♪」
「お役に立てたならなによりです」

　彼女の笑顔に甲斐斗も嬉しそうに微笑んだ。

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