レッツ陶芸チャレンジ！｜リアクション

レッツ陶芸チャレンジ！

◆茶香炉

　志波甲斐斗は若林沙穂の提案を検討した結果、参加することにした。理由は自分が何かの役に立てるならというだけでなく、他の人がどんな作品を作るのか気になったから。

（いいですね、このワクワクと緊張の混ざったような空気は）

　おそらく初心者が多いのだろう。スタッフの説明に皆真剣に耳を傾けている。甲斐斗も初心に帰る気持ちで話を聞く。説明後は各自ろくろや手びねりで自由に作っていく流れのようだ。

（ろくろもありますが、仕事ではありませんし、今日は手びねりで作りましょうか）

　土の触り方が他の人たちと明らかに違う。道具の扱いも手慣れている。

（しかし、いつも見慣れている道具が多いとはいえ、工房が違うと感覚も変わりますね……おや？）

　甲斐斗は並べられた器材の１つに注目した。

（この器材……僕の働いている工房にも欲しいですね……）

　本職ゆえの観察眼だろうか。工房全体を見渡すと色々な点に興味を惹かれる。器材だけでなく、材料や窯、スタッフの所作など。しかし今日はあくまで一般参加者だと思い出して、目の前にある土を眺める。

（そういえば、最近お客様からお茶の葉をいただきました。なら茶香炉を作りましょうか。上皿は葉の形で……香炉部分は穴を多めにして光を……ふふ、楽しいですね）

　仕事として作るときとは違い、気の赴くままに作るのはどこか新鮮だった。自分の作業が一息ついて周囲を見ると、他の人たちはまだ作業を続けていた。

（他の方の作品を見るのはとても参考になりますし、少し見て回りましょうか）

　甲斐斗は邪魔にならないように気を付けながら作業スペースを歩く。スタッフも沙穂先生から彼のことは聞いていて、手助けは歓迎されている。

「ここは厚くなりやすいので気を付けて」

　あくまで参加者のやりたいことを聞きつつ、必要な部分だけ助言する。

「縮むので少し大きめにするといいですよ」

　そうして回っているうちに皆もだんだん慣れてくるのを感じた。もう助言の必要はないと判断し、自分の所に戻って仕上げを行う。できあがった作品は他の人の作品と一緒にスタッフに預ける。

（あとは工房の方にお任せしましょう。素焼きや本焼きは時間がかかりますしね）

　焼く工程はすべてスタッフが担当する。その際、甲斐斗は黒色の釉薬をお願いしていた。焼く工程が終わると完成品はきれいに仕上がっていた。黒の光沢がまぶしい。

（ふむ、紅や藍で一線、色を入れたらよりよかったかもしれませんが、これも十分に良いものですね）

　今回の話を受けてよかった、と出来上がった茶香炉を眺めながら改めて思った。

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