【期末テスト】赤点？留年？？春雷、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】赤点？留年？？春雷、四日間の死線＜物語編＞

　浅見柚乃は一人、シーサイドタウンのカラオケボックスに向かっていた。テスト返却後、すぐに教室を出て来たので誰とも話すことはなかった。
　ぼんやりとしながら歩く。
　テストの点はそう悪いものではなかった。ほっとしたのも束の間、これから女子バスの打ち上げがある。
（あの話、なくなっててほしいけど）
　打ち上げカラオケが決まった時「羽生先輩も呼ぶ？」などという会話が聞こえてきたのだ。
　入学前で忙しいはずだから、とメンバー達に話したが結局のところ羽生碧南は誘われたら来てくれるだろう。
（羽生先輩…）
　柚乃は碧南に恋をしていた。いや、今もしている。彼女の顔を思い浮かべる度、胸がぎゅっと締め付けられるように苦しくなる。
　この先、この恋が叶うことは永遠にないないだろう。だって碧南は想い人だった男性と心を通じあわせたのだから。
「はあ」
　諦めないといけないのに、出来そうもない。

霧生愛はテストの答案用紙を鞄にしまうと、教室をでた。何人かのクラスメイトと挨拶を交わし、シーサイドタウンのカラオケボックスへと向かう。
　テストの結果は思ったよりも良く、少しだけ気持ちが軽い。これから女子バスの打ち上げだが、いい感じに盛り上がれそうだ。
　もちろん、色々と複雑な関係が続く柚乃も参加だが、以前の険悪さに比べたら今は大分ましなのだ。
　他ならぬ碧南にキャプテンの座を託された手前、気持ちをあからさまには出来ないのだろう。
　愛は小さく息を吐いた。
（きっと私も碧南先輩のことを好きだとおもってるんだろうな。……浅見先輩）
　ちょっとだけ憂鬱になってきた。

羽生碧南は聞いていたカラオケボックスの前に立った。後輩たちからの誘いで打ち上げが行われているこの場所へやってきたわけなのだが。
（なんだかんだ、付き合いが良いな）
　後輩達の嬉しそうな声、電話越しに誘われて断り切れなかったのだ。女子バスの打ち上げと聞いてから気がかりなのは柚乃と愛のことだ。
　二人も恐らく参加しているし、この中で一緒に歌っているのかもしれない。
（前みたいな感じではない、よね）
　浮かんで来た不安を振り払い、いざ中へ。
聞いていた部屋番号のドアを開くと、肩を組んで歌っていたり、楽器でリズムをとる後輩達の姿が。思いっきり盛り上がっていた。
「きゃー！　羽生先輩だー」
「お疲れ様です！」
「先輩、何飲みます？」
　嬉しそうに声をかけてくる彼女達に対応しながら、真ん中の席へ座る。
　ちらりと二人を見ると、柚乃も愛もそれなりに楽しんでいる様子が見受けられた。
（よかった）
　と、その時。聞き慣れたイントロが流れ始める。
「あ、次、羽生先輩おねがいしまーす」
「柚乃、キャプテンなんだから羽生先輩と歌って」
　メンバーの一人に言われ、柚乃は戸惑う。よくわからない理由である。
「この曲三人で歌うものでしょ？　パート分けが難しいわ」
苦しい言い訳で抵抗するが、
「なら、一年生代表は霧生さんかな」
　なんやかんやで、カラオケルーム内のステージに三人で並ぶことになってしまった。
「あ、ははは～。じゃあ、Ａパート歌おうかな！」
　碧南が歌い出す。
　リズムを取りながら、お互いに目配せをする柚乃と愛。
「じゃあ、Ｂパート、お願いします、浅見先輩」
「ええ。霧生はｃね」
　楽し気に歌う碧南をみていると、今だけは協力しなくてはなどと考えてしまう。
　次、柚乃が歌い出す。
「愛、ｃパートは難しいから、頑張って」
「は、はい」
　こんなことなら練習でもしてくれば良かった。などと少し思った。
　やがて愛のｃパートに入り、
「柚乃、最後のサビの高音行ける？」
「だ、大丈夫だと思います」
　碧南は嬉し気に頷いた。
　恋をしている相手の笑顔程、輝いて見える者はないだろう。笑顔が眩し過ぎる。
「はい！　最後のＡパートは三人でー」
碧南が大声で言って、準備していたおかげか綺麗なハモリがカラオケルーム内に流れ、最後は拍手に包まれたのだった。