Cat Island/Phantom ataraxia｜リアクション

Cat Island/Phantom ataraxia

「やったぜ！　また新しい洞窟を見つけたぞ！」

　龍目豪は木天蓼大学探検サークルに所属して以来、寝子島中を探検しまくる日々を送ってきた。
　彼が新たに発見した数々の功績は、世界中の地球科学者に幾多の衝撃を与え続けた。
　例えば、偶然発見した洞窟の奥に人類古代史の常識を覆す壁画が描かれていたり。
　例えば、単なる動物の化石かと思ったら、進化のミッシングリンクを紐解く未知の古代生物の骨だったり。
　例えば、寝子島の地層についてレポートが、地球誕生の謎を解き明かしてしまったり。

　……とまぁ、今や豪は若き探検家にして天才地球科学者として名を馳せている。
　おかげで大学内ではサインを求められるのは日常茶飯事、女性からのアプローチは昼夜問わず。
　豪もハーレムを憚ることなく、両手に美女を抱えて闊歩する有様だ。
「はっはっは！　今日もみんなでクラブ行くか？　カネなら国から研究費をたんまり貰ってんだ、接待費で落とすぜ」
「「きゃ～♪　豪さまぁぁ～！」」
　すっかり悪い遊びも覚えて、まさに勝ち組ウェイ系一軍男子大生に染まった豪。
　しかし、今朝、急に手の甲に浮かび上がった赤い紋様のような痣が気になっていた。
　取り巻きの低身長の地雷系女子が猫なで声で尋ねてくる。
「ねぇ豪さま？　その手の甲のタトゥー、何処で入れたの～？」
「ん？　ああ、これか？　今朝、急に浮かび上がってな。ズキズキ痛えし、水で洗っても落ちやしねえ」
「え、何かのアレルギーじゃね？」
　左耳にジャラジャラとピアスを揺らす高身長細身のロングヘア女性が投げ槍に尋ねるが、豪は首を横に振る。
「そうだと思って薬を塗ったんだが、全然効きやしねえし。つか、なんか大切なこと忘れてるような……？」
　豪が手の甲の痛みと連動するこめかみの痛覚に顔をしかめる。
　脳裏に何かが掠めた気がした……のだが、取り巻きの女性の酒臭い吐息で全て掻き消された。
「大切なコト？　あたしとの先約、でしょ？」
「ん？　ああ……そうだな？」
「……んじゃ、これ終わったら適当にみんなを撒いて、ホテルで合流ね？」
　耳元で甘く囁かれた豪は、泥酔女の零れそうな豊満な胸元にニヤニヤしてしまった。

　深夜３時。横浜のホテルのキングサイズベッドの上で、豪はぼんやりと天上を眺めていた。
　隣には、疲れ果ててぐっすり眠る全裸の泥酔女。
　豪はその女の寝息を聞きながら、ふと言葉が自然と衝いて出た。
「……虚しい」
　すべて順風満帆な筈なのに。
　冒険で新発見したような高揚感が、日常に、行為中に、全く感じられなかった。
「九夜山……暫く登ってないな。また、初心に戻ってみるか？　ん……なんだ？」
　一瞬、天井に浮かんで見えた金色の招き猫の幻影。
「金色の招き猫？　なんであんなものが見えるんだ？　待てよ？　俺は、英霊……？　思い出したぞ……」
　豪は一瞬で思い出した。
　自分のやるべき事と、この日常が繰り返しの虚構で、自分の理想を叶えさせられているという事を。
「同じことの繰り返しなんか冒険じゃねえ！　俺は……この世界をぶっ壊す！」
　こうして、豪は英霊に覚醒したのだった。

【龍目豪／クラス：セイバー】

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