わんわん、わんこそば｜リアクション

わんわん、わんこそば

◆わんこそば初挑戦

　休日。
　綾辻綾花は早川珪先生と出かけていた。古書店では珍しい本を見かけて喜んだり、公園で冬の空気を満喫する。ふと、綾花は空腹を覚えた。

「ちょっとお腹空いてきましたね」
「そうだね、どこか近くを探してみようか」

　午前中から動いていたのに、気づけば午後２時を回っていた。珪先生と過ごすとあっという間に時間が経つ。
　公園を出て、街中にある店を眺める。どれも美味しそうだが、ふとわんこそばの幟を見つける。そば屋『戌井』では定額料金で、ギブアップするまで食べられるようだ。

「珪先生、行ってみますか？」
「いいね」

　綾花は初めてのわんこそばに興味津々だった。店内では同じようにわんこそばに挑戦している人たちがいる。

「いっぱい食べるコツとかあるんでしょうか」
「どうだろう、早食い競争だとあまり噛まないほうがいいとは聞くけど」

　たしかに食べてる人を見ると、そばを啜るというよりも飲み込んでいる。実際にテーブルに着くと、１杯あたりの量はだいぶ少なく見える。

（これならたくさん食べられそうです）

　しかし食べ始めてみると、意外に口に入らない。それにテンポよく次の分が投入されて休憩のタイミングもつかみにくい。

「は、早いですね」

　入れられた分は食べなければと思い、薬味などで味変を試みるがそろそろ区切らないと限界だ。

「ちょっと苦しくなってきました……」
「僕もだ」

　２人はアイコンタクトを送りあう。そして盛られたそばを口に含んだ直後、同時に蓋を閉めた。満腹を少し超えた胃袋を優しくさする。珪先生も同じように寛いだ姿勢で胃を休めている。焦って食べたからか、彼の口元に薬味が残っていた。

「珪先生、ネギがついてますよ」

　綾花はそれをつまんで口に運んだ。深い意味はなかったが、珪先生は少し恥ずかしそうだった。

「ごちそうさまでした」

　なかなか大変だったが、笑顔で食事を締めることができた。

「もうお腹いっぱいです。私は４０杯食べられました」

　自分が食べた椀を数えてみると、意外に食べたんだなと感じた。珪先生のを数えてみると６０杯だった。

「珪先生、大丈夫ですか？」
「ああ、大丈夫。ちょっと食べ過ぎたとは思うけどね」

　綾花は珪先生ががっつり食べるタイプではないことを知っている。だからどうにも彼の体調が気になるが、とりあえず大丈夫そうだ。

「お蕎麦美味しかったですね」
「ああ、良い体験になったよ」
「ちょっと公園で休憩してから、お出かけの続きしませんか？」
「そうだね」

　２人は会計を済ませると、ゆっくり公園へ向かった。

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