わんわん、わんこそば｜リアクション

わんわん、わんこそば

◆いろいろな楽しみ方

　ある日曜日。
　楡宮遠海はガールズバンド『衝動少女』の練習のため、午前中からメンバーと一緒にシーサイドタウンにある貸しスタジオに来ていた。
　練習に熱が入り、気が付けば１４時を回っていた。集中力も切れてきたし、全員お腹も空いてきた。そこで一旦休憩にしてどこかで食事を取ろうということになった。

　周辺は様々な店があり、和洋中だけでなくエスニック料理なども候補にあがる。そのなかで、ふと遠海の目に入って来たのは『戌井』という蕎麦屋だ。そこの貼り紙にはわんこそばを実施している旨が書かれている。定額料金で、ギブアップしない限りはお椀に投入されるスタイルのようだ。
　遠海の瞳が、恋する乙女の如くキラキラと輝きだす。

（また始まった……）

　それを見た時、他のメンバーは同じことを思った。彼女が痩せの大食いなことは全員知っていた。しかし反対意見は無く、ここでいいかと４人揃って入った。
　実はわんこそばは全員が初めて。勝手が分からないので、４人とも投入は店員に任せて食べることに専念する。

（わんこそば、楽しみだわ）

　遠海は、最初の１０杯は薬味無しでそばの香りやのど越しを楽しむ。
　それからねぎ、かつおぶし、とろろ、なめこおろし、紅しょうが、山菜、錦糸卵、ごま、鳥そぼろ、もみじおろし、わさびなどを１杯に１品ずつ、または複数組み合わせて味のバリエーションを楽しむ。
　わんこそばは１杯あたりの量は少ないので、こういった楽しみ方には向いているのかもしれない。
　そうこうするうちに５０杯を突破していた。この頃には他のメンバーは既にギブアップしていた。味変などの工夫はしていたようだが、そもそも食べられる量が遠海と違いすぎる。

　遠海は気に入った薬味の組み合わせや、まだ試していない未知の味などを織り交ぜて、勢いを落とすことなく食べ進める。
　メンバーが見守る中、１００杯目に突入。１００杯以上のわんこそばを食べると、記念品として可愛らしい絵柄がプリントされた『わんわん手形』が渡される。
　しかし遠海はなおも食べ続け、２００杯を超えたあたりで満足した。お腹も満たされたところで、記念品の手形を受け取った。

「わんわん手形、かわいい！　猫と違った可愛さだよね」

　遠海は満面の笑顔で大事そうに鞄にしまった。

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