インターネットの向こう側　―拡散希望―｜リアクション

インターネットの向こう側　―拡散希望―

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　綾辻綾花はその日、早川珪先生を誘ってデートも兼ねたアルバイトを行っていた。
　アルバイト先からカメラを借りて、珪先生と一緒に賑やかな通りを歩いていく。
「珪先生はどこを紹介したいですか？」
「そうだね」
　寝子島には魅力的な場所がたくさんある。
　生まれも育ちも寝子島の綾花は紹介したいところが多くて思い悩んでしまう。
　とはいえ、多くの人達に寝子島の良さを知ってもらえるのは嬉しい。
「寝子島は素敵な場所ばかりなので迷いますね。気になる場所が多すぎて……」
「わかるよ。つい、いろんな場所を紹介したくなるよね」
　珪先生の何気ない微笑みこそが、綾花にとっての特効薬だ。
　二人は話しながら自然と歩き出す。

　二人がまず向かった先は寝子島神社だった。
　参道を通り過ぎ、周囲を見回していた綾花の視界に止まったのは野良猫の姿。
　この神社には野良猫たちも多い。にゃん、と鳴く愛くるしい仕草がそれに相まって、綾花の心を魅了した。
　神社の建物の近くでごろりん、ふにゃにゃにゃ～んと転がるにゃんこ。
　いつもなら猫メモを片手にいろんな猫を観察している綾花だが、今はその愛らしい姿を見逃さないようにカメラを手にしている。
　猫と建物の構図になるように、綾花はカメラを構えた。
　そして、カメラの位置を少し下げて、できるだけ猫に近い目線で撮る。
「可愛いですね」
　綾花は撮った写真を珪先生と一緒に確認する。
「どうですか？」
「ああ、いいね。癒されるよねえ」
「はい……とっても。神社の荘厳さとにゃんこの愛らしさが絶妙です」
　そう言って、綾花は写真を撮らせてくれた猫に煮干しを渡す。
「ありがとう」
　綾花は煮干しを食べる猫の姿を眺めながら撫でる。抱きかかえてみても暴れることもなく、綾花の腕に収まっていた。
「珪先生、見てください。にゃんこが！　私の腕でごろりんに！」
「うん。お昼寝に夢中だね」
　この時間がずっと続けばいい、そう考えてしまうのは珪先生が隣にいるせいなのだろう。
　この幸運な時間を綾花は噛みしめる。
　綾花は境内を歩き、珪先生と交互に写真を撮っていく。
「本当は珪先生も撮りたいけど、恋する女の子が増えたら困りますから」
　ぽつりとつぶやいた言の葉がその髪を揺らす。冬の静寂を溶かした空は建物の影の下でも美しく見える。
　もし……珪先生の写真を撮って、それが多くの人の目を引くインターネット上に掲載されたら――
（絶対に珪先生に会いに来る人とかいますよ！）
　隣を見上げれば、珪先生は穏やかな面持ちで、その横顔は端正で隙なく整っている。
　綾花の胸は知らず高鳴った。手にしたカメラにその鼓動が映り込んでしまいそうなほどに。
　様々な人々が行き交う音だけがやけに喧しく聞こえていた。
　神社を出たその後も、綾花は猫と建物をメインに写真を撮っていく。
　猫と観覧車とか、猫と灯台とか。
　綾花は猫目線でカメラのレンズを向けて寝子島を紹介していった。
　大切な人と過ごす切実な時間。肌を包んだ温かな気配は輝かんばかりの太陽の姿の一つなど、忘れさせるかのようだった。

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