年賀状を出そうよ｜リアクション

年賀状を出そうよ

「年賀状……そういや父さんたちは今どこにいるんだっけ」
　稲積柚春は年賀ハガキを手に、超転勤族の両親に思いを馳せる。
「元気にやってるって連絡も、メールより年賀状がいいかな」
　一人暮らしが上手くいってるよという報告も兼ねて、両親に年賀状を送りたい、と柚春は思った。
「どうせなら近況も知らせたいから、ワットと一緒に描きたいな！」

「……それで僕のところへ？」　
　柚春の話を聞いたウォルター・Bは目をぱちくりさせ、面白くて仕方ないという顔をする。
「『ウォルター先生』として英語の指導をしてもらって、英文のカード……とかも考えたんだけど、担任でも無いし「先生」として知ってほしいわけじゃないからね」
「新年の挨拶くらい指導しなくても書けるでしょ？」
　たしなめるようにウォルターは言うが。　
「ワットはやっぱり、新年の挨拶はクリスマスカードでまとめてするタイプ？」
「いや、郷に入っては郷に従えだねぇ。クリスマスカードだとお年玉くじがないしね」
「確かに。僕は、ハガキで届く方がアルバムに残せて好きなんだけど、引っ越しが多かったからなかなか郵便物でのやりとりは少なくて……みんなも、僕のことを覚えてくれているかどうか」
「……そうなんだねぇ」
「……なんてね！　ほら、一緒に書く年賀状のデザイン考えよう！」
　笑顔を見せる柚春。

「『ウォルターさん』としてなら、もっと気さくな感じかな。犬耳のパーカー一緒に着た写真とか、犬っぽいポーズとったりとか」
「どうせなら犬とご主人様かなぁ。命令するご主人様役ならやってもいいよ。どんな命令をしようかなぁ」
「犬って、ご主人様の言うことは絶対なの？」
　コンコン。
　その時、ノックの音がしてウォルターと柚春は顔を見合わせた。
「どうぞ……」
「コホン……お茶をお持ちいたしました」
　温かそうに湯気を立てるお茶に対し、メイドのメアリ・エヴァンズがウォルターに向ける視線が心なしか冷たい。
「いや、戌年の年賀状の話を……」
　言い訳しようとするウォルターだが、柚春は気づいていない。
「どっちの役も難しそう。上手くできるかな？」
　柚春は思う。
（「ワット」として……両想いってわかっただけで、恋人として紹介できるわけじゃないし。でも、いいことがあったよって、幸せだよって伝えるくらいならいいかな）

「あ、それから、ワットに書く年賀状と、メアリさんへの分と……」
「え？　僕と一緒の年賀状を書くのに僕にも年賀状を？」
　少し混乱した様子のウォルターだが。
「ああ、でも三が日に挨拶するなら書かないんだっけ。投函しないで、手渡しに来るのもいいね！」
　瞳を輝かせる柚春はどこまでもマイペースだった。

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