年賀状を出そうよ｜リアクション

年賀状を出そうよ

「年賀状を書くぞー」
　意気込んでみたものの、年賀ハガキを前に倉前七瀬の手は止まっていた。
「どんなデザインにするか悩みますねぇ……」
　七瀬が書こうとしているのは、お世話になっているウォルター・B先生への年賀状だ。
「来年は戌年でしたっけ？　犬を飼っとったらその子の写真とかを使えばいいんでしょうけど、おらんしなぁ」
　ひとりごちる七瀬。
「となると、イラストでしょうか」
　絵は得意！　というわけではなかった。
「頑張ってみます」
　資料として犬の写真を検索してみる。
（しかし普通に犬を描くだけでは面白くないですし）
　ふと思いつく。
　頭に浮かんでいるウォルターの顔をイメージして描いてみようか。
（ふーむ、ウォルターさんイメージの犬……。イギリス生まれで、スマートで洗練された感じ……マンチェスター・テリアなんかウォルターさんにピッタリな気がします）
　運動神経抜群で、ネズミ狩りが得意な犬だ。落ち着きがあり、明るく優しい。
「……ふむん、むしろウォルターさんそのものに見えてきました」
『そのものって、どういうことかなぁ？』
　ウォルターの声が聞こえるような気がして、七瀬はクスッと笑った。
（本人に言ったら怒られるでしょうか……？）

　ハガキにイラストを描き始める。
「目の色はウォルターさんと同じ青い瞳に……」
　ちょっと余白ができたので、七瀬は少し考えた。
（シェットランドシープドッグのイラストを描き足すとしましょう）
　コリーとよく似ているがより小型で、牧羊犬に必要な敏捷性と忍耐力を兼ね備えている。
「この子の目の色は緑に……っと。うん、自分で言うのもなんですが、味のある年賀状になったと思います……！」
　出来上がった年賀状を眺め、満足そうに頷く。

「さて、後は住所を書いてポストに投函ですが……」
　ウォルターの顔を思い浮かべながら七瀬は思う。
「直接お渡しするという手もあるのでは？　そうすればウォルターさんに会えますし」
　名案だ。
「でも、郵便受けに年賀状が入ってるって状況もいいですよね」
　目の前にいない七瀬に思いを馳せてもらうというのは、手渡しにはない魅力だ。
「うーん、悩みますー」

　悩む時間もまた、楽しい。

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