年賀状を出そうよ｜リアクション

年賀状を出そうよ

　寝子島図書館では、毎年暮れになると開催される恒例のワークショップがあるという。
「手づくり年賀状教室、ねぇ……先月はクリスマスカードのワークショップが盛況だったけど」
　職員に説明されて、今年図書館長に就任した森本明乃は反対する理由もなくこの企画にゴーサインを出した。
「とはいえ最近はメールやSNSで済ませる人が多いし……」
　そんなに希望者集まるのかしら？　と半信半疑であったのだが意外にも。
「え？　もう満員なの？」
　数日後、得意げな職員から報告を受けることとなった。
　幸いにしてこの企画は好評で、30人ほどの募集人員は数日で満席となったのだ。

「具体的な内容は、絵手紙、消しゴムはんこ、切り絵とかなんですね」
　館長である明乃は、ワークショップの講師となる先生と事前に打ち合わせをしなくてはならない。
　図書館内のイベント用の部屋の設営は職員に任せるとはいえ、最終チェックはしなくてはならず、ただでさえ年末で忙しいのに事務仕事の合間を縫っていろいろと細かく動き回っている。
「ところで館長さんは年賀状はどうされるんですか？」
　講師の先生に訊かれた。
「……ああ、市販されたものに一言二言ペンで書きいれてそのまま投函……って感じね」
　年賀状人気が下火になっているとはいえ、管理職としてはなかなかやめられない慣習である。
　とはいえ手をかける余裕はないから、最低限手書きを入れることで誠意を表しているのだが。
「お忙しいでしょうが、せっかくですからワークショップの体験を兼ねて、手作りで年賀状を書いてみてはいかがですか」
「……そうねえ」　
　館長の仕事の一環となれば、無下に断れない。
「それじゃ、よろしくお願いします」

「では、絵手紙を描いてみましょう」　
　そんなわけで絵手紙に挑戦することになった。
「来年の干支は戌ですので、犬の絵でいきましょう」
「えーと……見本あるかしら？」
　元々絵心があるとは言えないので、なかなか難しい。
　見本を見ながら四苦八苦して取り組んだ結果。
　ぱっと見犬には見えない代物になってしまった。小学生のほうがうまいかもしれない。
「……へんてこな絵になっちゃった」
　凹む明乃に先生は笑顔を向けた。
「いやいや、これが味があっていいんですよ」
「そんなものですかねえ……」
　訝りつつも、そう言われるとまんざらではない。
　
（何人かに出してみようかな）
　と明乃は思うのだった。

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