Good‐bye｜リアクション

Good‐bye

　黒服もゆかりも部屋から立ち去り、後には二人の男と静寂が残された。
　……と思いきや、ゆかりが戻ってきて床の封筒を拾い上げる。智也が突きつけ、ロベルトが落とした後そのままになっていたものだ。

「……とても大切な事を忘れていました。こちらは私たちが責任を持ってお預かりしますね」

　続けて、ゆかりはポケットからスプレー缶を取り出すとロベルトに近付いた。

「それと、SRSNの化学班渾身の作、後遺症の一切残らない記憶消去薬『スグワスレール』でこれに関する記憶を削除しまーす！」

　プシューッという音とともにロベルトの頭が濡れていく。

「なんなんだよ、もう……。……あれ……千種にすごく怒られてた気がするけど、なんで怒られてたんだっけ……」
「効くの早すぎるだろ……。不知火だったか。そんなことして何の意味があるんだ？」
「……千種さん。この人は罪を有耶無耶にするために、私たちを皆殺しにしようなんて言い出す人です。ですから……その……ね！」
「言いたいことはわかった。……もう用事済んだだろ。帰れ。うぜぇんだよお前」

　言われた通り少女は帰っていった。今度こそ二人の男と静寂が残る。

「……大丈夫か」
「……うん」

　これから気の遠くなるほど長い間二人きりだ。美少年にも友人にも恋人にも家族にも会えず、ただ相手だけが在る。喧嘩などしていられないと思うのは同じらしい。二人の声は柔らかかった。

「……そういえば、僕が君の居る大学に編入して、そして……の続き、何？」

　が、平穏はそう長く続かなかった。智也はロベルトを睨みつけた後、頬を赤らめる。

「……同じ会社に勤めて、綺麗なドレスを着た花嫁と式を挙げて……お前の花嫁は俺が紹介した女だ……友人代表でスピーチをして、子供の名付け親になって、家族ぐるみで仲良くして、どっちかが死んだら残った方が弔辞を書いて……だから……」
「千種……君も大概、」
「おかしいのはお前だ！　なんで治らねぇんだ！」
「うっ」

　握り拳がロベルトの腹にめり込んだ。悶絶する彼の背を、智也の足が踏みつけ転がす。仰向けになったロベルト。智也はその胸倉を掴んで頬を殴った。殴った。殴った。

「お前が治れば俺たちは親友に戻れる！　なのに……なんでお前は……俺は……」

　智也が黙り込むと同時に、ロベルトの頬に温かな雫が降った。最初は一滴、二滴だったものがやがて頬全体を濡らすものになっていく。
　ロベルトは何故智也がそんなことを言うのかまるでわからないまま、彼の瞳から零れた雨を浴びていた。

　一方その頃。仮想空間の外では何でもない日常が続いていた。例えば、東京のありふれたデートスポットの前は恋人を待つ若者で溢れかえっていて、近くにある大時計の針が進むたびに、一人、また一人と相手と合流しては中に消えていく。やがてその場に残った最後の一人が、溜息と共にこう零した。

「遅いなぁ、智也くん……」

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：六原紀伊
ファンレターはマスターページから！

六原です。リアクション大変お待たせして申し訳ございませんでした。
この度はプライベートシナリオのリクエストをありがとうございました。

改めて記載しますが、ゲーム全体の公平性を保つため、当シナリオを根拠に
　・仮想空間で鍛錬して無敵になった
　・全知全能になった
　・何らかの技能の達人になった
等の設定に変更する行為はご遠慮ください。
脱獄や出所と言えばいいのでしょうか、仮想空間から解放されましたというロールプレイはご自由にして頂ければと思います。
その際は出所用プライベートシナリオの申請は不要です。

その他あとがきは個別コメントに詰め込みました！
プライベートシナリオへのご参加ありがとうございました！

↑ページトップに戻る