「お二人がなかなかのクズなのは充分わかりました! 私たちも命は惜しいです。お二人の出番はカットしますし、データも完全に抹消します」
温泉旅館の一部屋の中、謎の黒服に取り押さえられたのは、
ロベルト・エメリヤノフと
千種 智也。ありったけの力で抵抗するも黒服はびくともせず、ただ体力を消耗するのみ。そんな二人に、少女は判決を言い渡すように語りかける。
「その代わり、お二人をここに閉じ込めることにしました。撮影はしません。これまでの行いをしっかり反省してください!」
先んじて諦めたのは智也だった。長い溜息を吐いた後、低い声で少女に尋ねる。
「そうか……何時間だ?」
「九十九年です」
「九十九年!?」
鸚鵡返しのロベルトを一瞥もせず、少女は続けた。
「正確には、お二人の寿命に加えて九十九年……冗談です。ですがそのくらい長い間ここに居て貰います。百年か……千年か……大丈夫です。永遠じゃありません」
そのあまりの『刑期』に呆然とする智也の隣で、ロベルトは必死に思考を巡らせていた。その表情はなかなかに悪どく、口元がぴくぴくと動いている。
——百年か千年か……たしかに長い。長いけど……まだだ! まだ僕にはろっこんがある! 千種を美少年にすれば……!
そんな浅知恵は、あっそうだ、から続く唐突な少女の言葉で粉々になった。
「ここにいる間、お二人のろっこんは使用禁止とします。それと、エッチな雰囲気になったらスタッフが駆けつけてお二人を取り押さえますね。全年齢向けですから。当たり前ですよねぇ?」
天国から地獄へと叩きつけられたロベルト。彼は絶望が生んだ馬鹿力で黒服の拘束を解くと、発作的に自らの腕を押さえ、叫ぶ。
「……ろっこんが……僕の、神の力があああああああ!!」
なぜこんなことになったのか?
ついにロベルト逮捕か?
その答えを知るには今から数時間前に遡る必要がある。
……※……
「やっと……取れた!」
冬のある日。取り立ての免許を思いロベルトは上機嫌だった。道を歩いていながら、時折ニヤつきを抑えきれず口元を手で覆い隠す。
なんていったって車で出来ることは山ほどある。例えば美少年の前で精一杯格好付けながら、
「送ってあげよう。家はどこなの? ドライブしようよ」
なんて言うことも出来る。そうして美少年を車に乗せたら——そんな通報ものの野望で胸をいっぱいにしながら、ロベルトは一歩踏み出した。その瞬間、
「……あれ?」
それまで歩いていた道とは全く異なる場所に立つ。辺りを見回すと、どこかの温泉旅館の一部屋であることがわかった。奇妙なことに、外には桜吹雪と紅葉が見える。今は冬のはずだ。そしてそれ以上に奇妙なことは——。
「千種!? っていうか、ここどこ?」
「知らねぇよ……」
その部屋に居るのはロベルト一人ではなかった。ロベルトにとって元親友で、元ルームメイトで、今はただの友人の智也が居る。彼は溜息を吐きながら、ロベルトと同じく辺りを見回している。
なぜ彼がここに? ロベルトの頭に疑問符が浮かぶ。待ち合わせなどした覚えはなかった。そもそも温泉旅館に行く予定もなかった。拉致監禁事件? そんな物騒な考えも脳裏を過ぎった。
同じことを考えたのか、智也が慌てて外に出ようとした。が、扉へと伸ばしたその手に、ばちりと衝撃が走る。
「はいはーい、MewTubeをご覧の皆さん人生楽しんでますかー! いつも心にエンターテインメント! 司会の不知火ゆかりです! 突然ですが皆さんに、ある動画企画に出演していただきまーす!」
そんな中、部屋に突如明るい毒舌が響き渡る。マイクを持った――カラフルで奇抜な髪色と、パステルカラーでふんわりした印象ながら、どこか個性的な服装をした――少女が、テレビの画面に大きく映し出されていた。
「えっ……何それ!?」
「悪ぃけど、詳細教えてくれない?」
「えっ……知らない? MewTube見ない人ですか? しょうがないですねー」
と、ゆかりはSRSNについて軽く説明する。MewTubeに独自のチャンネルを作って活動している組織だそうだ。説明を終えてから、ゆかりは画面外の誰かに身振りで指示を出し笑顔を作った。
「はい、では仕切り直してー……題して、『いきなり関係進展! リア充爆発できるかな2』!」
これに続いた彼女の言葉を要約すると、出演者は原則二人、場合によっては複数人が部屋に閉じ込められ、親睦を深める様を映すのだという。
関係性は恋愛に限らず、友愛、親愛、家族愛等々、凡ゆるものが対象だ。
説明を終えたゆかりは両の人差し指をつん、と合わせた。
「開始から一定時間経つとですねー、脱出チャンス! お部屋にいる人にハグしていただきます! するとなんということでしょう、元居た場所と時間に戻れます!」
困惑している二人の様子を見ているのか見ていないのか、ゆかりはどこまでも明るい声で喋り続けている。とはいえ、とゆかりは前置きしてにっこりと笑った。
「嫌でしょうがないけど脱出のため! なーんて、つまらないと思いませんか? その場合、無効です。判定については企業秘密でー……す……なんですか?」
彼女の言葉を遮るかのように、画面外から黒服の男がやって来る。そうかと思えば、数枚の紙束を置いて去っていった。ゆかりは困惑しながらもその内容を読み上げる。
「『フィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。また、描写されたあらゆる思想・行動を容認・助長する意図はありません』……だそうです」
読み上げた後、ゆかりは紙束を画面外に返してこう言った。
「それでもナニカあった場合、落神研究所の黄井研究員がピラニアや黒豹の餌になるそうです。偉大なる奈羽田(なばた)所長のもとに臆病者の日和見主義者は不要ということでしょう」
猫又川は今日も透き通っていることだろう。さて話を戻して、と言い、ゆかりは続けた。
「とにかく! 楽しんでください、お相手と!」
お世話になっております。六原です。
この度はプライベートシナリオのリクエストありがとうございました。
アクションについても事前連絡誠にありがとうございます。
その上で。
このシナリオのジャンルはコメディです。
繰り返します。
このシナリオのジャンルはコメディです。
概要
参加PCの皆様はいきなり旅館やホテルの一部屋、教室、はたまたカラオケボックスなどといった、どこか外と隔離された空間に、一緒に閉じ込められました。
本シナリオはSRSNの用意した撮影用の仮想空間での出来事になりますが、参加PCの皆様は本物の寝子島での出来事だと思わされています。
ですので、本シナリオでPC様の受けた傷等はシナリオ後完治するようになっています。
なお、仮想空間と本物の寝子島では時間の流れが異なります。肉体年齢は本物の寝子島に準拠します。
精神がどうなるかはわかりません。
ゲーム全体の公平性を保つため、本シナリオ後に
・仮想空間で鍛錬して無敵になった
・全知全能になった
・何らかの技能の達人になった
等の設定に変更する行為はご遠慮ください。
以下はPL情報です。
NPC・不知火ゆかりから告げられるまでPC情報となりません。
特殊なマイクによってPC様の心の声はSRSNに筒抜けです。
心の声は動画化の際テロップとして挿入されます。
◆SRSN
MewTubeに独自のチャンネルを作り活動している謎の組織です。
コンセプトは『いつも心にエンターテインメント』
従業員は殆どが謎の黒服男です。
◆不知火ゆかり
奇抜な髪と個性的な服装が特徴の少女。SRSNに雇われているらしい。
いざという時のストッパーと、モニターから茶々を入れる以上のことはしない。
◆落神研究所
本土鎌倉のどこかにある研究所。
何を研究するかは所長の一声で決まるため、これといって決まったものはない。
リアクションには登場しません。
◆奈羽田所長
落神研究所の所長です。リアクションには登場しません。
◆黄井研究員
落神研究所の職員です。下っ端も下っ端。リアクションには登場しません。
リアクション公開後にナニカがあった場合、ピラニアや黒豹の餌になります。
それでは、ご参加お待ちしております。