【球技大会】冬の熱き決戦！｜リアクション

【球技大会】冬の熱き決戦！

　稲積柚春は浮かれていた。
（ウォルターさんに告白をして、すきだと言ってもらえた）
　大好きなウォルター・Bのことを、学校ではちゃんと先生って呼んでいる、人前では特に。
（けど……まだ恋人ではなくても浮かれたって仕方ないよね？　誰も見てないなら、少しだけ……えへへ）

　でも球技大会のことだってちゃんと考えている。
「当日は救護班のお手伝いをしたいんです。湿布独特の匂いがダメな人もいるだろうから、得意なことで役に立てたらいいなと。打ち身や捻挫に効くアロマで。鎮痛効果のあるオイルはいろいろあるけれど、管理しやすく少なめで考えてみました」
「なるほどねぇ、でもそれは担任の先生に相談しないとねぇ」
「勝手な処置は良くないってわかっているから、こうしてウォルター先生に相談したんです。僕がアロマについて学んでいることも知っているから、担当の先生にも口添えしてくれるでしょ？」
「ああ、口添えはできるけどねぇ。僕自身は専門でもなんでもないから、やはり直接鷲尾先生に相談したほうがいいよ」
「……わかりました」
　それから周囲に人がいないのを確かめて、柚春は声を潜めて言った。
「……これ、筋肉痛にも効くから、もしワットが出場することになってもケアしてあげられるね？　それとも、練習に付き合っててすでになってるかな」
「大丈夫だよぉ、僕が付き合わなくてもみんな自主的に練習してるし」
「ワット用にならレモンユーカリを使って特別ブレンドにしてあげる。でも、怪我なんてしないでね？」

　そんなこんなで、鷲尾礼美先生に話したところ快諾してくれて、保健委員会の事前ミーティングに参加することになった。

「アロマで応急処置？」
　保健委員会の委員長である椎井莉鳥は、鷲尾先生の言葉に目を丸くした。
　隣に立つ生徒は保健委員ではないはずだ。
　高校最後の球技大会、既に陸上部は引退済みの莉鳥だが、保健委員会では変らず多忙である。
　２学期の後半でもあるし実際には後輩に少しずつ業務を引き継いでいる、とはいえ。
「稲積さん」
　鷲尾先生に促され、委員たちの前で柚春が説明する。　
「２年の稲積です。精油を使った応急処置です。ヘリクリサムは関節痛や筋肉痛の炎症を緩和する効能があり、ラベンダーは鎮痛効果や傷の鎮静効果があります。保湿効果のあるホホバ油と混ぜて患部に塗り、氷嚢をあててしっかり冷やします。とくにヘリクリサムは、青あざになりにくくする効果があるんです」
　皆驚いた表情で聞いている。
「詳しいのね……」
「予算的に全員に取り入れるわけにはいかないけど、自主的に申し出てくれるのはありがたいし、できる範囲でお手伝いしてもらえるのは助かるわ」　
　鷲尾先生の言葉に、莉鳥は頷いた。
「わかりました。稲積さん、よろしくね。かかった分のお金は後で請求書をちょうだい」　
「はい、よろしくお願いします」
　それから、鷲尾先生を交えてどのようにケガ人や体調不良になった生徒の救護にあたるかをチェックする。
　寝子祭と違いスポーツで勝敗を競うから、どうしてもケガ人が出ることは想定内だ。
（やれるだけのことはやったわ。大きなケガがないことを祈るばかりね）

「今年も球技大会が始まりますねぇ。卓球って普段あまりやらないんですけど、頑張りましょう♪」
　卓球シングルスに出場することにした巫部紫苑は、明日の試合用の可愛い浴衣を用意しながら言った。
「お弁当も沢山作って明日頑張りましょう♪」
　たくさんの大きな重箱を用意し、10人分はありそうな弁当を作り始める。
　大食いの紫苑にとっては、一人でもペロリと食べられる量なのだった。

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