夢みる。したいこと｜リアクション

夢みる。したいこと

　綾辻綾花は夢の中で魔法の世界の中にいた。
　そこは魔法が生活の一部として溶け込んでいる世界で、そこで綾花は図書館司書の仕事をしていた。司書の仕事の主な内容は本を探すこと、そして魔法で勝手に動く本を捕まえることだ。

「スピネル、ジェード、そっちをお願い」
　ボブカットの髪から転がり落ちそうな角帽を押さえながら本棚の間を駆け抜けた綾花が指示を飛ばすと、青色と緑色をした空飛ぶ猫が本棚の向こうに飛んでいく。
　程なくして二匹の猫に追われた本が待ち伏せする綾花のもとに飛んできた。
「えいっ！」
　可愛らしいかけ声とともにぴょんと本を抱え込むようにジャンプして飛びつく。本は逃げようとするが綾花の大きな胸に行く手を遮られてついに彼女の腕の中で動きを止めた。
「ふぅ。お疲れ様、スピネル、ジェード」
　一仕事終えた綾花はまず相棒の猫の苦労をねぎらってやる。
　そこに綾花の先輩にあたる正司書のケイがやってきた。
「ご苦労様。今日も精が出るね」
「あ、ケイさん。ありがとうございます。これも私達の大事なお仕事ですから」
　憧れの先輩に褒められて、綾花の頬が嬉し恥ずかしそうに緩む。
「仕事熱心で素晴らしいね。ところで、疲れているところを悪いけれど、彼女の話を聞いてあげてもらえるかな？」
「え……？」
　背の高いケイの背中の横からひょいとキツネ耳の少女が顔を出したことに綾花は驚く。
「儂は寝子島高校一年生の片夏阿呂江じゃ！　ところで、ここはどこじゃ？」
「……ネコシマ、コウコウ？」
　アヤカはキツネ耳の少女――阿呂江が口にする知らないはずの言葉を何故かひどく懐かしく感じた。今の阿呂江は世界が変わってキツネの耳が現れている。
「彼女の言葉は僕には要領を得なくてね。同じ年頃のアヤツジくんならきっと通じるものがあるんじゃないかって」
「はあ、わかりました」
　ケイの頼まれ事とあっては断るわけにはいかない。
　綾花はひとつ頷くとやはりどこか懐かしく感じる異国情緒溢れる服を着た阿呂江に話を聞く。
「ここはニャンデール王国王立図書館です。アロエさん、でしたか？　あなたはネコシマという国から来られたのですか？」
「ニャンデール王国？　そんな国は知らぬのう。む、もしかして、これはあれか？　異世界というやつか。おお、それは凄いのう！」
「……異世界？　では、アロエさんは別の世界から来られたということですか？」
　にわかには信じがたいことだったが、それならば彼女の不思議な姿も説明がつく。
「うむ。こうもやもやっと霧の中に迷い込んだら気がつけばここにいてのう。あれをくぐれば元の世界に戻れると思うんじゃが……」
「霧、ですか。ケイさん、そういう不思議な霧をご存じですか？」
「いや、僕も知らないな。でも、この図書館のどこかに、その霧に関する資料があるかもしれない。一緒に探してくれるかな？」
「はい、もちろんです！」
「ふむ。ならば、儂も一緒に探そう！　本を読むのは好きじゃからな！」
　三人は膨大な蔵書を誇る図書館をときに魔法で検索したり、ときには関連ありそうな本棚の本を総当たりして情報を探し始めた。
　あれも違う。これも違う。そうして、どれほどの時間が流れた後のことだろうか。
「ケイさん、アロエさん、これを見てください！」
　思わずというふうに声を上げた綾花の声に阿呂江とケイが綾花の肩越しに彼女が手にした本を覗き込む。
　そこには――。
「これは……」
「本の挿絵が動いておるのう……」
　本の挿絵の中で展開するまったく別の世界の物語が繰り広げられていた。

このページにイラストを設定する