寝子電乗ろう♪｜リアクション

寝子電乗ろう♪

　ホームに立っていると、秋色の電車が入ってきた。車体に、イチョウや栗、赤とんぼが描かれている。全体的にふわっとした淡いタッチだ。
「こんな電車走ってるのね。もしかして、これ指定席？」
「記念の特急じゃないんだから。普通のラッピング電車でしょ」
　水上桜に教えられ、有沢茉奈は、はっとした。
　今付き合っている彼氏がグラフィックデザインを勉強していたことを思い出したのだ。
　そんなことを考えているうち、停車して扉が開いた。
「中も秋色っぽくなってるみたいね。これはこれでいい感じじゃない？」
　桜が感心したように隣の茉奈に話を振る。
「もしかすると、あたしの彼氏の作品かも！？」
　何やら非常に盛り上がっていた。この数秒で彼女の中で何が？
「いや、これってラッピング電車のデザイン募集で選ばれたのだから違うと思うけど」
「えーそうなの？　残念」
　二人は並んで座席に座る。
「それにしても、無料デーなんて運が良いね。まさか無料で乗れるなんて」
　ご機嫌な茉奈に、桜も頷く。」
「JRの駅まで電車代が浮くのは助かるよね」
　目的地は鎌倉だ。今日だけは乗り換えまでの代金は取られないのだ。
「うーん、JKのお財布に優しい！」　
　買い物に行く身としては、ありがたい。
「まぁ、今日は桜メインだけどね」
「え？　茉奈もほしい服があるんでしょ？　なんで」
「いやいや、桜は無自覚だけど　素材は悪くないし、センスあるのにおしゃれしようとしないから。あたしが色々と見てあげようと思って。なんならデート服のトータルコーディネートしてあげよっか？」
「なんでちょっと上から目線？」
「あたしなら桜を完璧に出来るから！」
「人を未完成みたいに……」
「そういえば、この前のデートでスカートに見えるショートパンツとセーターでコーデしたんだけど、見るなり、かわいいって言ってくれてー。メイクも新新しいやり方にしたの」
　流れるようにのろけ話へ持っていかれてしまう。
「あ！　のんびり彼氏と電車デートとか良いかも。無料の時に路線を往復するとか」
　文字通り、ただの電車デートだ。
「まぁ、確かにこういうおしゃれな電車で出かけるのは良いかも」
　もちろん、桜の頭の中に浮かんだのは最近出来た彼氏の姿だ。
「だよね！　お弁当はやっぱり駅弁風弁当かな」
「……絶対聞いてないよね……？」

　寝子電がゆっくりと目的地へ向かってゆく。揺れる車内で、外の風を感じた気がした。

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