寝子電乗ろう♪｜リアクション

寝子電乗ろう♪

　落合まゆらは駅に向かいながら、大きく伸びをした。
「んー！」
　晴れて良かった。今日は東京へ出向かなく予定なのだ。ついでに春からの新生活に向けて、物件の下見でもしようかと思っている。
「アキバにも寄ろうかな」
　自分が住むかもしれない街の探索も考えておこう。交通費は少々痛いが。
「……って無料デー？」
　寝子電が乗り放題らしい。無料切符を購入し、駅のホームに立つ。
「これは大きい……！」
　つい、小声で呟いてしまった。東京での用事は、出来るだけ今日に済ませたいところだ。下積み時代は節約と決まっている。
　と、ホームに電車が入ってきた。
『ハマ娘　プリティーマリン』のラッピング電車だ。ふと思う。
（そういえば、朝ごはん少ししか食べてなかった）
　タコ娘とイワシ娘、深海魚娘や熱帯魚娘が描かれている。熱帯魚はカラフルで目を引くが、中でも特にお気に入りのタコ娘とイワシ娘は地味な可愛さがある。永遠のライバルらしい。
（旅館の朝ごはんとかには出るよね）
　どちらも刺身にしたら美味しいだろう。
　そんなこと思いながら、電車の中へ。

　白石龍樹がホームに立ったところで『ハマ娘　プリティーマリン』のラッピング電車が入ってきた。駅員さんに聞いたところによると、画家『猫田球太郎』ラッピング電車が行ったばかりだそうだ。本数は増えているが、待たずに乗れるのはありがたい。門限は18時。それまでは乗り放題。少し冒険するのもありだろう。
「うっわー。クオリティたっか」
　色の塗り方やキャラクターの描き方が神がかっている。推しを探すのが少し大変そうだ。
　と、ドアが開いたところで誰かが隣に立った。
「ハマ娘、なのね」
　マリエッタ・ラシュリエは興味深そうに呟く。
　龍樹は首を傾げた。
「お姉さんも乗るのか？」
　マリエッタは微笑んだ。
「今、画家『猫田球太郎』ラッピング電車に乗ってきて降りたところだったから。でも、色々走ってるのね」
「今日はお得だよな！」
「そうね。それじゃ」
「おう！」
　綺麗な人だった。
　電車へ乗り込むと、中もハマ娘満載だった。
「うぉぉ〜。今日だけとかもったいないだろ！」
　もう少し長い期間運行してもらいたいものだ。と、その時。
「あっ」　
　隣の車両に、寝子戸アイランを見つけた。

　まゆらは空いている車内をゆっくりと見回していた。ドアの上の部分に描かれているのは、新キャラの金魚娘三姉妹だ。
「やっぱりランチュウかわいい」
　新キャラの中でも推しなのだ。
『ランチュウは食べられないけど』
　耳に響いた女の子声にハッとした。
　天井付近のタコ娘がウィンクした。
『あたしが一番美味しいから！』
　そう声が聞こえた気がした。しばらくぽかんとしていたまゆらだったが。
「お姉さん、タコ娘と推し？」
　車内探検中の龍樹が声をかけてきた。
「え、ああ。一番美味しそ……かわいいからね！」
「俺も結構好きだぜ！」
　にっと笑って、隣の車両へ歩いていった。
　まゆらは考える。
（少年役も出来たほうが幅が広がるよね）
　女性声優の特権だ。
　そんなことを考えていると、いつの間にか鎌倉についていた。

　龍樹は出会ったアイランに声をかけることにした。
「アイランちゃんはどこまで行くの？　オレは鎌倉までいくんだぜ！」
　アイランは手をバタバタさせ、電車の進行方向を指で指した。
　どうやら同じ場所と言いたいらしい。龍樹が写真を撮っていると、すぐに鎌倉へ到着したのだが。
「アイランちゃん、電車の外で一緒に撮ってよ」
　アイランは嬉しそうにこくりと頷いた。
　ホームに降りてから、近くを歩いていた茉奈と桜に声をかけ、撮ってもらうことにした。
「はい、撮るよ！」
　電車をバックに、構える茉奈だったが。
「あ！　彼氏からだ！」
　どうやらやメールが届いたらしい。
「はい、私が撮ってあげるからねー」
　流れるように、桜が変わりにシャッターを押してくれたのだった。

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あとがき

担当マスター：高城ヒト
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