旬のサンマは生きがいい｜リアクション

旬のサンマは生きがいい

●期待を受けて

　三毛谷道哉は寝子ヶ浜海岸へやってきた。目的は『サンマ漁』だ。もともと参加するつもりは無かったのだが、包丁の付喪神である剛鉄や猫たちの眼差しに負けた。

「しかし、これはサンマ漁と呼べるんだろうか」

　視線を海に向けると、手足の生えたサンマたちが押し寄せてきている。しかも全員２メートルは超え、発達した筋肉を携えている。どうやらあれらは倒すと新鮮なサンマになるらしい。

「あのサンマを殴ると秋刀魚になるとはどういう仕組みなのだろうね……考えても仕方ないか」

　いま大事なことは、それらを倒すこと。そして美味しいサンマを頂くことだ。

「あれだけ大量にいるんだ、この恵みに感謝しよう。それに、頂けるというならもらっておこうか」
「……手伝おう」
「ありがとう。さあ、いくよ」

　期待の眼差しを受けながら、剛鉄とともにマッチョサンマの群れに向かう。剛鉄は流木を拾い上げ、竹刀のように構えた。道哉はサンマを入れるための竹籠を背負う。
　好戦的な彼らは道哉にすぐさま殴りかかって来た。青年姿の道哉は一見すると、こういった争いには不向きに見える。しかし猫又であり、その前に猫なので素早さはとにかくすごい。
　地面を蹴ると重そうな拳をふわっとかわし、クルンと猫のように降り立つ。しなやかな動きでサンマたちの攻撃を引き付けて、間合いに入ったところですっと避ける。
　するとサンマたちの同士討ちが起こり、こちらから攻撃しなくても自滅してくれる。それでも残った時には、ひっかきやかみつき攻撃を仕掛ける。

「おや？　猫のサガがでてしまった。はしたなかったねぇ」

　少し照れくさそうに笑う道哉の表情は、どこか余裕が感じられた。

「長い手足のりーちがあるのもいいものだ」

　それに剛鉄が後ろを守っているのも大きい。彼はサンマの身が痛まないように重い一撃で仕留めている。対照的な戦い方の２人がどんどん釣果をあげていく。やがて海岸から見えるマッチョサンマの数が減っていき、ようやく収まった。
　倒した分は山分けして早速七輪を囲む。和服に身を包んだ剛鉄が、七輪を前に神妙な面持ちで焼く姿はとても絵になる。

「うん、いいね。うまい」

　道哉たちはサンマを食べ終わるまでずっと楽しく過ごした。

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