旬のサンマは生きがいい｜リアクション

旬のサンマは生きがいい

●修行の一環

　響蒼留人は寝子ヶ浜海岸にやってきていた。雨こそ降っていないが風は強く、少々荒れ模様だ。

（サンマさんによると『サンマ漁』らしいけど……）

　不穏な空気のなか、蒼留人が海に目をやると何かがやってくるのが見える。それはサンマのように手足を持ち、そして筋骨隆々なマッチョサンマだった。
　どうやらあのマッチョを倒すと普通のサンマになるらしい。結構な数が来ているから、なるほど確かにサンマ漁だ。

（しかしサンマさんがあのサンマたちを食えっていうのはシュールだな。とはいえ放っておくわけにもいかないし）

　蒼留人は持参した竹刀を取り出した。

（それに、うまいサンマが食えるならいうことないしな！）

　マッチョサンマは止まる気配を見せず、こちらに突進してくる。
　蒼留人はこれも剣道の修行だと思い、竹刀を構えると精神を集中する。いざマッチョサンマが眼前まで迫ると、蒼留人よりも高い背丈と筋肉の圧を感じる。だが集中力を研ぎ澄ませた蒼留人が退くことはない。見た目よりも機敏で鋭い拳が彼に襲い掛かる。どうやら好戦的なサンマのようだ。

（速いが、これくらいなら避けられる）

　蒼留人は少ない動きで拳を避けると反撃の一手をお見舞いする。

「面！」

　マッチョサンマの頭に入った一撃で、あっという間に見慣れたサンマに戻った。その後も何体も突っ込んできたが、どれも蒼留人にとって脅威ではなかった。

「大したことないな……ってサンマさん、出てくるな紛らわしい！」

　サンマさんも背が高いのでうっかり間違えそうになる。蒼留人は彼が他の人に攻撃されないことをひっそり願った。その後も戦いは続き、マッチョサンマはだんだん減りつつあった。しかし砂浜での戦いは慣れてきたとはいえ足を取られる。

「油断は禁物だな」

　改めて気を引き締めると最後までサンマ漁に徹した。そして他の人たちの協力もあって、無事に漁は終了した。見てみると結構な数のサンマが収穫できている。

「ふう、あとはサンマパーティだ」

　浜辺の一角ではサンマさんが七輪をたくさん用意してくれていた。他にも調理できる場所があり、お造りや握りなども作れそうだ。

「でも俺は食べる専門でいいかな」

　異種格闘技のようなことをずっとやっていて疲労も溜まっている。それにだいぶお腹も空いてきた。

「塩焼きに刺身、炊き込みご飯もあるのか、美味そうだ！」

　食べてみると期待を裏切らない旨さが口いっぱいに広がる。蒼留人は秋の味覚を存分に楽しんだ。

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