がんばった、あなたへ｜リアクション

がんばった、あなたへ

●毎朝のランニング

　早朝。
　八神修はランニングのために起き上がる。運動しやすい服に着替えると靴を履いて外に出た。まだ太陽が出たばかりで少し涼しい。
　ストレッチで体を徐々に温める。修は弱点である体力不足を補うために１年の春からランニングを続けている。相棒は柴犬のカーキー。準備運動をしているとリードを咥えてきて『行きましょうご主人』と修を誘う。

「お前は賢いな」

　修はカーキーをワシャワシャと撫でると、いよいよランニングを開始した。無理のない速さで走り、町の人々や景色を楽しむ。

「おはようございます」

　顔見知りの住人とは挨拶も交わす。

（逆に俺も彼らの朝の風景の一部なのだろう。それが少し嬉しい）

　またカーキーも人気があり、通り過ぎる人たちに可愛がられている。こういう時間はランニングをさらに楽しくしてくれる。

「今日は休日だし、いつもより遠くまで走ろうか。良いかな？」

　修がカーキーに問いかけると元気な声を返してくれた。少し足を伸ばした先でどんなことが起こるだろうか。修は胸を躍らせた。
　見慣れたところから少し知らない景色へ。その移り変わりを楽しんでいると開店したばかりのカフェを見かけた。しかも犬OKだという。

「ちょうど休憩したいところだし、寄っていこうか」

　修はカーキーと一緒に入店する。店内はスペースを広く取っていて、犬を連れていても歩きやすい。メニューは手のひらサイズのケーキが中心で、どれも美味しそうだ。さらに犬用のケーキも用意できるらしい。
　コーヒーとケーキを１つ注文すると、さっそくいただく。甘さ控えめで食べやすく、その味わいがコーヒーにも合う。

「これは良いところを見つけた」

　店内の雰囲気を味わうように食べた余韻に浸る。カーキーも落ち着いた様子で修のそばに座っている。休憩もほどほどにして店をあとにした。

「また来よう」

　それから来た道とは別のルートで自宅へ戻って来た。すると玄関先で七夜あおいが待っていた。

「おはよう、あおい」
「修君おはよう。出かけてたの？」
「ああ、走ってきたんだ。あおいはどうしてここに？」
「じつは宿題で分からないところがあって教えてほしいの」
「もちろんOKだよ」

　いつもと変わらない会話のなか、あおいはカーキーをたびたび見ていた。彼女は犬が苦手で、おとなしいカーキーでも気になるのだろう。

「撫でてみる？」
「え？」

　あおいは戸惑いつつも、カーキーのほうに手を伸ばそうか迷っている。彼女は宙をしばらくさまよった手をすっとしまった。申し訳なさそうな顔をするあおいに修が声を掛ける。

「誰にも苦手はあるし、無理はせずにいこう」

　修はカーキーを使用人に託してあおいを自室に招いた。宿題のことやランニング中にあったことを話していると、あおいもすっかり笑顔に戻った。

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