けもの島の青空教室｜リアクション

けもの島の青空教室

●皆で踊りましょう

　綾花と別の場所では、娘の楓と祖父母宅で昼寝をしていたはずの梓智依子が漂流していた。
　ぐっすり眠る楓の隣で横になり、扇風機の風にあたっているうちに眠っていた……はず。
　なのに目が覚めると身を寄せている祖父母宅でなく、見知らぬ島。
　それだけでも驚きなのだが、ケモ耳、ケモシッポ姿の子ども達に囲まれていたことにも驚いた。
「先生が起きた！」
「よかったぁ！！」
　子ども達は、智依子にじゃれるように飛びついてきた。
　その時、頭と腰あたりに何かしらの違和感を感じたので触れてみた。いつの間にか、頭に猫のような耳が。
　耳だけでなくシッポまで。それだけでなく、部屋着は三毛猫柄の黄色いビキニ姿に変わっていた。
「な、何、この格好……」
　身なりを見て面食らった。
（耳と尻尾の模様。水着の柄といい三毛猫なのね……）
　そう思っていると、先に目覚めていた楓が「ママとおそろい！！」と大喜び。
　智依子同様、楓も三毛猫の耳とシッポ、同じ柄のワンピース水着姿だ。
　子ども達は智依子を「先生」と呼ぶので、この子達は自分の「生徒」であろうことはどうにか理解できた。
（……一応、そういうことなのね？）
　様々な動物の子ども達は、どの子も可愛い。一緒に遊んでいる楓は、この状況にすっかり馴染んでいる。
　子供は、こういう時にいち早く順応してしまうらしい。
　自分にできる授業は何かと、遊んでいる楓と子ども達を見て考える。
　私に教えられるのはこれ、ということで、得意な踊りを教えることに。
「皆、集まって。今から先生が踊りを教えます」
　踊りって何？　と子ども達は傾げる。
「おんがくにあわせてからだをうごかすんだよ。ママじょうずなんだよ」
　楓の言葉に興味を示した子ども達は教えて！　とせがむ。
　踊りの前に、子ども達が怪我しないよう準備運動。

　智依子は8歳でストリートダンスの才能に目覚め、11歳の時点でダンス全盛期に達し名だたる賞を総なめに。
　ダンス界を席巻した彗星と謳われていたが、中学に上がったのちに忽然と姿を消した天才少女ダンサーChiCoだった。
「私はこれでも将来はプロのダンサーを目指してたの。もっとも、それは叶わぬ夢になったけど……」
　不安になったのか、子ども達は智依子にしがみつく。
「大丈夫よ。夢は叶わなかったけど、私はそのおかげで楓と出会えたの」
　仲良くしてあげてね、と楓の頭を撫でながら言う。
「ママだいじょうぶ？　なかないで」
　楓も子ども達と一緒に不安がる。
「大丈夫よ。さ、授業を始めましょう」

　いきなり高度なダンスは教えられないので、子供たちが楽しめる範囲で。
　小さい子供ができそうなダンスは何か。
　これならできそうと、振り付けが簡単な未就学児向け番組でやっているエアロビ風のダンスを教えることに。
「まずは足踏みをしましょう」
　そう言って、その場で手を叩きながら足踏み。
「そうそう、その調子。とっても上手よ」
　右手を上げ、脇を伸ばして左側に倒す。左手を上げ、脇を伸ばして右側に倒すといったお手本動作を。
　両手を開いて腿を上げるのはともかく、上体を倒して両手をぐるっと回しながら起き上がるのは難しいかな？
　そう思ったが、子どもたちは見様見真似で一生懸命、楓と一緒に踊っている。
「一生懸命に踊る子ども達と楓、すっごく可愛い……」
　目を細め、けものキッズダンサーの様子を見守りながら微笑む。
　ラジカセといった音響機器がないので、音楽は智依子の歌声だ。
「このうた、うたえるよ！」
　楓も一緒になって歌う。母子の歌声に合わせ、子ども達もわかる範囲で一緒に歌いながら踊る。

「みんな、とっても上手に踊れましたね。先生、すっごく嬉しいです」
　先生に褒められたー！　と子ども達は飛び跳ねて喜ぶ。
　その後は休憩を挟みつつ、日が暮れるまで子ども達と楽しく踊った。

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