予想できない雨と処暑にぶり返す暑さは恋と似ている｜リアクション

予想できない雨と処暑にぶり返す暑さは恋と似ている

　残暑の厳しい９月であって良かったと思うのは、長く海が楽しめる時。
　少し丈の短い長袖のタッパーを着て、三折部朝衣は朝から恋人の……いや、今は婚約者の住沢遥人とサーフィンを楽しんでいた。
　猫が波乗りをしているスカッシュテールのボードを手に、仕事で忙殺されていた分も楽しむぞと意気込んでいたけれど、生憎天気は長く味方をしてくれなかった。
　海に出る前、台風が接近しているという話も聞いていた。だからって、お昼前の今、風が出てくるなんてあんまりだ。
「そろそろ撤収する？」
　きっと遥人の判断は正しい。
　無謀なことはできないが、本格的に荒れる前なら……いい波となりそうで。
「……これで最後！」
　余程、今年サーフィンが出来なかった鬱憤が溜まっていたのか。それとも良い波を前にサーファーとして衝動が止められなかったのか。風に続いて小雨も降り始めた中、朝衣は海に向かってしまう。
　波のうねりが少し強いかも知れないと思ったときには、朝衣は豪雨に襲われた。内心ヤバいと思わなかったわけじゃない、それよりも一際大きな波が来た喜びが恐怖を上回ってしまった。
（これなら……いけるっ！）
　豪雨と共に楽しむ大波は爽快で、今日の締めくくりには最高の波だったと思う。
　ただ、遥人にはとても心配をかけてしまったようで……荷物をワンボックスカーに詰め込んだあと、彼のアパートに着くまでの道中は、チクチクとお小言をうけることになってしまった。

　遥人のアパートへつくと、二人仲良くお風呂に入って温まり、やっとひと心地つけた。
　そういえばと思い出した空腹感に時計を見て、少し遅くなったランチを手早く作り、食事をしながら盛り上がるのは先ほどのサーフィンのことだ。
　あの波は凄かったねとか、もう少し遅かったら危なかったとか。共通の趣味は、こうやって話が盛り上がるからあってよかったと思う。

　一人分の憩いの空間だったここも、何度か泊まりに来るせいか、今は二人分の私物が並んで二人の大切な場所になりつつある。
　何度も会う度ときめきを募らせた恋が、気づけば愛に変わっていたのか、最初から未来を見据えた大人な恋愛をしていたか……あなたはどちらなのだろう？
　少ないデートも楽しくて、仕事が忙しくてもお互いに自立した大人として付き合えるのが良かったとも思う。
　もう少し先の幸せの約束も、もしかしたら仕事の落ち着くタイミングを待って切り出してくれたのかと思うくらい、不思議なほど好調に進んでいく。
　悩みはきっともう、『嬉しすぎることかな！』なんて思うくらいには、浮かれている。

　決めなければいけないことはまだまだある。
　式の日取りは早く決めて、会場を手配しないといけない。入籍だってどのタイミングにするかとか、互いの家族への挨拶とか、楽しいこともちょっと面倒に感じる準備も山積みだ。
　……でも今は、ひとまず。
　婚約者として働くのはお休みして、付き合って1年目の恋人同士の時間を満喫したい。
　それはただ、肩を並べて映画を見るとか、ベッドで甘い時間を過ごすとか、そういうのではなくて。
「季節の変わり目だし、二人でカーテンを選ぶのも悪くないわね」
「カップも新調する？」
「最初に買ったのは、部屋に飾ってもいいかも！　それから……」
　結婚をするから一緒に住むのではなくて、今はまだ恋人の延長を楽しむための同居。
　刻一刻と近づくその日を楽しみに、二人の話は弾んでいく。

　雨は次第に落ち着いてきた。
　けれど二人の時間は、まだ終わらない――。

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