予想できない雨と処暑にぶり返す暑さは恋と似ている｜リアクション

予想できない雨と処暑にぶり返す暑さは恋と似ている

　強風混じりの雨に、同級生がヤバいとかスゲーとか言いながら窓の外を見ている。
　それを横目に、梓智依子はスマホに届いたバイト先からの連絡を確認していた。
『全体連絡：おもちゃのハローニャック寝子島店は、本日臨時休業とします。悪天候ですのでスタッフの皆様は安全に自宅待機を心がけて下さい』
　客足のこともあるだろうが、スタッフの安全を配慮してくれるのはありがたい。この分だと、交通機関に影響が出ないうちに学校も帰宅指示が出そうだ。
（そうなると……）
　考えようとした矢先、教室全体がチカチカと光る。かなり大きな稲光だなと智依子が外の様子を確認するように窓を見れば、一泊間を置いて重低音がビリッと身体を駆け巡った。

　――ドォオンッ!!

「きゃぁああっ！」
「わあああっ!?」
　さっきまで天気を実況していたクラスメイトが叫び声をあげても、智依子は騒がなかった。
　楓はこんなに大きな雷、平気だろうか。こばと幼稚園は、まだ帰宅指示がでていないだろうか。
　そんな心配こそすれども、動揺を一切見せないものだから、クラスメイトはまだゴロゴロ言っている空にびくつきながら、さすがだなぁと感嘆の息を吐く。
「智依子さん……クールだ」
　褒め言葉として受け取っておこう。智依子が涼やかに微笑み返すと、なぜか教室のあちこちからため息が漏れ聞こえた。

　結局、そのあとすぐに臨時ＨＲが行われて下校の指示が出た。
　幸い幼稚園からの連絡はまだ無かったので、自主的に早めの迎えに行くことにしたのはいいけれど。
「雷ピカピカすると、ママに早く会えるの!?」
　……誰に似たのか、楓は豪雨にも雷にも物怖じせず、それだけなら幸いと思うところだが。
　水たまりに突撃しようとしたり、傘を持って走るものだから傘がひっくり返って転倒しそうになったり、小さな濁流となった側溝を覗き込もうとしたりと大騒ぎだ。
　だからもう、レインコートを着ていても濡れるし変な汗をかくしで帰る頃には冷えてぐったりしていて、祖母がお風呂の準備をして待っててくれていたのが心底ありがたかった。

　たくさん遊びたいとはしゃぐ楓をお風呂の中で落ち着かせるのも一苦労で。日中外で遊べなかった分体力が有り余っているのかと思ったけれど……これは、きっと甘えているのだ。
　時間をとる工夫をしなければならないなと、智依子は楓が持ち込んだ玩具を隅にまとめて身体を洗ってやる。口を尖らせながらも「しょーがないなー」なんて洗われてくれる楓は、いつまでも小さくない。
　大切な子供は、自分一人で守らなければと思っていた。そんな時もある。
　強がってたそれも、こうして風呂を沸かしてくれる祖母がいて、見守ってくれる地域の人が居て、理解ある友人に恵まれて、そうじゃないんだってわかった。
　これから二人いっぱい笑っていられる優しい時間が流れるから、轟音の雨も激しい稲光も恐れることは何もない。
　時に困ってしょうがないなって笑ってことも、立ち塞がる壁もあるだろうけど、楓とみんながいるなら。
　独りじゃないが足して二人とは言い切れない。二人とも子供で、智依子は高校生としても親としても歩み進めたばかり。一人前と呼べるほど自信に満ちあふれているわけでもないけど。
　二人でいればのしかかる重みなんてはね除けられるし、幸せは無限大に膨らんでいく。
　あなたが嬉しいねって笑えば、強くなれる。

　お風呂上がり。
　お絵かき道具に、祖母に出してもらったぼろ布にと色々広げ始めた楓が満足げに笑う。
「ママー、てるてる坊主つくろー」
　明日の天気が、あなたの心がいつまでも晴れやかであるように願って作ろう。
　軒先には、家族によく似たてるてる坊主が並んだ。

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