モフモフ☆ドリームビーチ｜リアクション

モフモフ☆ドリームビーチ

●ちょっと大人な時間

　綾辻綾花は寝子ヶ浜海岸へやって来た。今ここでは『モフモフ☆ドリームビーチ』というイベントが行われている。昼の部と夜の部で内容が異なり、綾花は夜の部である『モフモフ☆ドリームナイト』が気になっていた。

（ちょっと様子を見に行ってみようかな。泳がなくても眺めて見るだけでもＯＫみたいだから）

　軽い気持ちでやってきた海岸は、普段とは違う姿をしていた。色とりどりのライトで照らされて、幻想的に見える。すると、その中に見覚えのある人影があった。早川珪先生だ。

「おや、綾辻さんじゃないか」
「珪先生！？」

　あちらも綾花に気づいたようで声を掛けてきた。

「知り合いが来てるかなとは思っていたけど、ばったり会うとは」
「私も驚きました」

　２人は並んで海岸を歩きながら他愛のない話をする。その流れで彼は綾花に海に入らないのかと尋ねた。

「一応水着は着てきたんですけど、着替えを持ってくるのを忘れてしまって……」

　綾花は少し恥ずかしそうに笑いながら、ちらっと珪先生に水着を見せる。彼は似合っているねとまっすぐに褒めてくれた。

（こんなに綺麗な海で珪先生と一緒に泳ぐのも良かったかも）

　小学生の頃、同じ失敗をしたことをふと思い出す。しかし忘れてしまったものは仕方ないので、足だけ海に浸かる。珪先生も並んで足を海に入れる。

「冷たくて気持ちいいですね」
「本当だ」

　足先のひんやりした感触が心地いい。２人はそうして過ごしていると、綾花はビーチの一角にあるVIP席に気づいた。

「あそこ空いてるみたいなので行ってみますか？」

　珪先生が頷くと、２人でVIP席にやってきた。ゆったりとしたビーチチェアに深めに座って足を伸ばす。彼の座る姿があまりに似合っていて、綾花のドキドキは止まらない。

「何か頼みますか？」

　はやる心を抑えつつ、珪先生に問いかける。

「私はモフモフチキン＆ポテトとアイスティーにします」
「僕は同じものにしよう。飲み物はアイスコーヒーかな」

　珪先生はスタッフを呼び止めると、２人分の注文をした。

「お酒も頼めるみたいですね」
「そのようだね」

　しばらくして２人のもとにチキン＆ポテトと飲み物が届けられた。

「折角ですし乾杯しましょう」
「ああ」

　綾花たちはそれぞれのグラスを掲げて軽く当てると、小さく高い音がした。

「乾杯！」
「乾杯」

　アイスティーを味わいつつ、ポテトを口に運ぶ。

「何年か経ったらお酒で乾杯したいですね」

　メニューを眺めるだけで注文することは出来ない。だけど、どんな味がするのか想像しながら珪先生と話すのは楽しい。２人は海に入らず、ずっと話していた。海のイルミネーションも綺麗で、会話にも彩りを与えてくれる。

「珪先生とここでこうして過ごしていると、ちょっと大人になった気分です」

　彼はそれを聞いて小さく微笑んだ。その姿がこの幻想的な海に合っていて、綾花は少しでもこの時間が続くことを願った。

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