風の化身と仲良くなりたい！｜リアクション

風の化身と仲良くなりたい！

　仙藤蒼は自動ドアが開くと同時にゲームセンターから飛び出した。近くの街路樹の日陰に入り、自然の風に身を任せる。
「はああ……外の方がましね」
　ゲームセンターの冷房の風が止まり、蒸し風呂状態になったのが三十分前。
　修理不可能らしいので、出て来てしまった。
「あっつ。こんな時に壊れるなんて大変ね」
　運がないとしか言えない。
　家に帰ろうか悩みつつ、歩いていると。
「ねえ」
　振り返ると、明るい色の茶髪にミニスカート姿の女の子が立っていた。爪にはネイル、控えめだが、シルバーアクセサリーが胸元に光る。
「やっほー、お姉さん。なんか、突然お腹空いちゃったー」
　言動や容姿が完全にギャルである。
　それはそれとして、不思議な雰囲気のある女の子だ。
「この街で一番美味しいもの食べたいんだけど、お姉さんめっちゃ詳しそうだからさー」
「そう見えるってこと？」
　初対面の人間への絡み方ではないとは思いつつも美味しいものが食べたいと言われると、案内したくなる。
（この暑さだし、やっぱり定番の冷やし中華、とか）
　冷やし中華の美味しい店を探すことにした。
「へえ～、ゲーマーって奴？」
　ゲーム好きだと話すと、そう返ってきた。
「だから汗だくでもゲームやってたんだ。プロ根性ってやつ？」
「見てたの？」
　蒼が首を傾げると、彼女はにひっと笑った。
「見ちゃってた」
「冷房が効いてればもう少し出来たんだけど、さすがにあの暑さはギブアップだったのよね」
　苦笑を浮かべる蒼。
「そうなんだー、なんかごめんねー」
　謝られた意味がわからなかったが、とにかく今は冷やし中華だ。
　友人や姉に聞いたり、ネットで調べたりしながら、美味しいと噂のラーメン屋へ。路地裏にあるそこで出している冷やし中華が評判がいいらしい。
　狭い店内、案内されて二人用の席へ。
「昔ながらのラーメン屋って感じねー。さすが地元民、」
　ギャル少女は物珍し気に店内を見回している。
「ここは聞いたのよ。結構寝子島高から近いのに知らなかったのよね」
「はい、おまたせー」
　注文して数分、運ばれて来たのはオレンジがかった麺だった。ハム、卵、きゅうり、サクランボが添えてある。
「わあ、美味しそー」
　箸を手に、麺を一口。
「ん！　すっごい良い匂い」
　蒼も麺をすする。
「これ、オレンジ？」
　と、店員の中年女性が笑う。
「ふふ、夏蜜柑の実と汁を練り込んであるんですよ」
　爽やかな香りとタレがマッチしていて、非常に美味しい。それはそれとして、
「あの、もしかして冷房」
　女性が汗を拭いながら困ったような顔をする。
「ええ、壊れてしまっていて」
　と、ギャル少女がぱちんと指を鳴らす。
　その瞬間、店内が微妙にひんやりとしてきたような。
「んー、ごちそうさまぁ。店員さん、替え玉とかあります？」
「冷やし中華ではやってないのよ」
　キラキラとした目で見つめてくるギャル少女。
「私ももう一杯行けそうだし、行っとく？」
　お互いにやりと笑う。
　二杯目突入。そして、食べ終わる頃には冷房の風が復活していた。店の前でお礼を言って去っていったギャル少女、もう会うことはないような気がして。それでも、そのまま見送ることにした。
「じゃあね、お姉さん」
「ええ」
　別れ際は素っ気なく。お互い、手を振った。

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