風の化身と仲良くなりたい！｜リアクション

風の化身と仲良くなりたい！

　姫神絵梨菜は散歩中、蒸し暑い夏の寝子島でやけにクールな少年に出会った。
　不思議な彼と雑談をし、分かれた直後にそれは現れた。
「ん」
　爽やかな細めのイケメン、薄水色の柔道着を着ている。彼のオーラは闘志に満ち溢れていた。それとは裏腹に冷たいその目は、絵梨菜を射抜くよう。
（わたしが拳法習ってるの見抜かれてるっ！？　これって、俺より強い奴に会いに行く的なアレだよね…？）
　どうやら絵梨菜の素質を見抜き、挑戦したい、らしい。目が語っている。
　絵梨菜は身構えた。
「いいよ、暑さでむしゃくしゃしてたからデートしてあげる」
　戦闘の意を示した瞬間、彼の姿がブレて、風を切る音がした。
「っ」
　左だ。とっさに腕でガードすると同時に後ろへすり抜けていく男。
　後ろへ飛び退きながら振り返ると、男は首をコキコキと鳴らしながら、こちらをみすえていた。
（凄く速いっ。スピード勝負じゃ分が悪いねっ。速くて力強い…まるで台風みたい）
　絵梨菜は駆け出した。真正面から突撃である。
　さすがの彼も少し戸惑っている様子。
　しかし、すぐに身構え、物凄い速さで右ストレートを打ってきた。
「おっとっ」
　するりと横へ体をよじって避け、彼の手首を掴む。
「隙ありっ」
　彼の腕を引っ張り、バランスを崩させる。
　ろっこんを発動させるタイミングかと思ったものの、体勢を立て直す彼の動きが常人のそれとはかけ離れていた。
「っ！」
　速い。ただただ速い。横へ避けるが、すぐに拳が飛んでくる。しかし、
「ふふ、攻撃パターンが分かってきた、かな？」
　勢いをつけすぎた拳は軌道が変えられない。そこを体の柔らかさを活かして、するりとかわしつつ、間合いに踏みこんで、チャンスを伺う。
　と、彼の拳が絵梨菜の腹部を狙って繰り出された。
「ふふ」
　絵梨菜はその手を受け止めて、体をくるりと回転。
「はっ」
　後ろ蹴りで彼の背中へ一発。
　踊るような動きで、拳を弾き飛ばし、逆側からもう一発。
　絵梨菜は後ろに飛び退いた。
「ふふ、どうかな、北風の王子様？　南風のお姫様のお相手は力不足だったかな？」
　彼は、痛みに悶えながらも睨んできた。重い一撃が来る。
　そう核心した。
　彼は目を見開き、拳を突き出してきた。間合いへ入るスピードは異常だ。
　絵梨菜は微笑んだ。
　発動するろっこんは、超音速美脚乱舞。
　先ほどと同じように拳を受け止めると、もう片方の手が下から拳となって飛んでくる。
「両利きなんだねっ」
　絵梨菜ももう片方の手でそれを受け止めると同時に、超音速美脚乱舞が彼の脇腹にヒットした。
　崩れ落ちる。　
「お姫様のお仕置き、お気に召したかな？」
　絵梨菜のスカートがひらひらと風に揺れる。雨の後のような、涼しい風だった。

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