星降る☆ビアガーデン｜リアクション

星降る☆ビアガーデン

　　　５

　ビアガーデンは午前一時までの営業だが、想花たち高校生組は、午後十時で上がりだった。
　巧と同じく一般席で仕事をしていた少女は「もっと稼ぎたい～」と駄々をこねていたが、こればかりは法律で決まっているので仕方がない。
　現金でバイト代を受け取り、それをカバンの奥に突っ込むと、想花は『イソラ・ガレッジャンテ』を出た。
「あれ？」
　それからしばらくして出てきた巧は、店のすぐ傍でしゃがみ込んでいる想花に気付いた。
「どうしたの？　帰らないの？」
　想花は巧を見上げて、苦笑した。
「クタクタで……」
「あ～、そうだよねえ。あ、ちょっと待っててね」
　言い置いて、巧はいったん店に戻った。何だろうと想花は首を傾げる。巧はすぐに戻ってきて、右手に持っていたものを差し出した。
「ハイこれ」
　それはバニラアイスだった。左手のアイスは、巧が既に舐めている。
　目を丸くしながらも想花がアイスを受け取ると、巧が横に腰掛けた。
「座っちゃったら、もう絶対動けないからさ～」
　ふう～、と巧は息をついた。
「あ、お金」
「いいよいいよ。お金入ったし、僕、先輩だからね」
　だが今日稼いだ金額は、想花の方が多いのである。
「疲れたねえ」
「疲れましたねえ」
　二人は同じことを言った。その傍らを客が何人か帰っていく。
「あ、あの人たち……」
「知ってる人？」
「ぼくがさっき、対応したお客様です」
　朝衣と遥人の後ろ姿が楽しそうで満足そうで、想花はホッとした。どうやら、接客にミスはなかったらしい。
「二組目のお客様を最後まで見られなかったのが残念です……」
　十時上がりなので、理紗子と真暸の接客を途中で交代した。仕方ないが、どうせなら、と思ってしまう。
「店長の采配ミスだよね」
　想花や他のメンバーの接客経験とスキル、一般席とＶＩＰ席のバランスを考えた割り振りなのだ、と店長は胸を張っていた。成功したかどうかは、今のところ不明だ。
　忙しかったし疲れたし大変だった。もうクタクタだ。でも、と、
「また、やりたいな」
　星空を見上げ、想花は晴れ晴れとした表情で呟いたのだった。

　食事を終えた美姫と湊弥は、ライトアップされた星ヶ丘の海岸を歩いていた。
　他にも幾人かのカップルがちらほらと見える。煌びやかな夜の海は、ロマンチックなデートにもってこいだった。
「なんだか……不思議な気分です」
　そうだね、と湊弥は頷いた。
　こんな夜更けに海を眺めていることへの感想か、それとも自分たちが二人きりでグラスを合わせるような間柄となったことへの想いかは分からなかった。
　美姫はサンダルを脱いで、砂の上を歩いた。後で足裏を洗うのが面倒だろうが、そんなことも気にならない程度には酔っている。
「次は、ＶＩＰ席にしましょうね」
「そうだね。来年は。その時は、ちゃんとカッコつけないとな」
　湊弥は、Ｔシャツにジャケットというカジュアルな服装だ。一般席だから問題なかったが、ＶＩＰ席ならもう少しきちんとした服を着た方がいいだろうと考えた。
「あら。私だってこんなですよ」
　美姫は半袖のブラウスにショールを羽織っている。
　振り返った拍子に、シフォンスカートがふわっと持ち上がった。
　湊弥は慌てて視線を逸らす。そんな様子に気付かないのか、美姫は言った。
「綺麗ですよね」
「あ、ああ、うん。ライトアップされてて、綺麗だよね」
「ライトアップされてなくても、綺麗だと思います。湊弥さんの瞳の色に似ていて」
　えっ、と湊弥は視線を戻した。少し先を歩いていたはずの美姫が、いつの間にか目の前にいる。
　じっ、と美姫は湊弥の目を見つめていた。湊弥も、今度は目を逸らさなかった。
　言葉がなくとも、二人の気持ちは、今この時、通じ合っていた。
　光を背に、二人の影がそっと重なり合った。

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あとがき

担当マスター：泉楽
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お待たせしました。「星降る☆ビアガーデン」リアクションをお届けします。
一夜だけのビアガーデンは、いかがでしたでしょうか？
たった一晩ということで話題だろう、VIP席はかなりの人気に違いない、ということで、こちらは予約制だったことにしました。リアクションもそれに合わせたものになっています。
ビールの名前は実在の物を捩った名前になっていますが、説明はそのままですので、興味のある方は飲んでみてもいいかもしれません（手に入らないものもありますが）。
私はというと、ビールに合う料理を検索しまくっていたら、海鮮居酒屋に行きたくて行きたくて困りました……。

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