ある夢の中のできごと｜リアクション

ある夢の中のできごと

　響タルトは目の前の生き物をまじまじと見つめていた。
（サキュバスって淫魔だよね？　こんなに小さいんだ……）
　それは小悪魔のような姿をした、あやかしの子どもたち。姉がサキュバス、弟がインキュバス。小さな羽をパタパタと動かして、宙に浮いている。
「ぼくと、てをつないで」
　淫魔とはいえ、子どもだからか要求がまだ可愛らしい。インキュバスの小さな手が、タルトに伸ばされる。
「手を繋ぐの？　いいよ♪」
　小さな手と手を繋いで、タルトはインキュバスの頭を撫でる。
「僕はＢＬが好きなんだけどね……インキュバスくんは、お兄さんと弟、どっちが好き？」
　質問されたインキュバスは、タルトの言っている意味がよくわからないのか、可愛らしく小首を傾げる。
「それじゃあ、普段厳しいけどほんとは優しいお兄さんと、チャラいけどいざとなると頼りになるお兄さんは？」
「おにいさん？　どっち……？」
「うん、どっちもいいよね。悩むよねー」
　相手は子どもの淫魔、なかなか結論が出ないようだ。タルトは今度は隣にいるサキュバスと手を繋ぐ。
「サキュバスちゃんは、しっかりして気配りもできる優しい弟と、いたずらっ子で手がかかる甘えんぼな弟、どっちが好みー？」
「おとうと……？」
　サキュバスもまた、インキュバスと同様に首を傾げる。これまた可愛らしい。
　エッチなことには、時代背景やシチュエーションも大事だというのがタルトの考えだ。エッチならいいというものではない。そういえばサキュバスとインキュバスは名前からして西洋出身だろうか。
「日本文化ってわかる？　例えば日本の夏だと、プールとか海とか、花火とかね……」

　その男は急にその場に姿を現した。顔には耳が３つ、口が３つ、そして目が３つある。夢を司るあやかしである三郎さんは、18年に一度の今日、不思議な夢にいざなわれた18歳前後の子どもたちに語りかけた。
「実は僕は君たちの夢に関わっていたんだ」
　何人の耳にその声が届いたかはわからない。三郎さんが干渉しにくい夢もあったから。それでも何人かの耳には届いたようだ。

　サキュバスとインキュバスの姉弟と遊び終えたタルトは突如聞こえた声に顔を上げた。淫魔が存在する時点で普通じゃないとは思っていたが、夢だったらしい。
「君くらいの歳の子の夢が大好物なんだ」
　目の前の男には、耳が３つ、口が３つ、そして目が３つある。
「あやかしなの？」
　夢なら、と憶することもなく、タルトは三郎さんに話しかける。
「そうだ。僕は三郎さん」
「耳と口と目が３つずつあるんだね？」
「僕の目の１つは真実を見る目であって、僕の２つの口は夢を食べ続けるためにある」
「３つ目の口の役割は何なの？」
「もちろん君と喋っている口でも食べることはできるが、それまで使ってしまうと退屈なものさ」

　三郎さんの姿が見えなくなって、辺りの景色もぼんやりとかすんできた。タルトは夢から覚めるのだと、なんとなくそう感じた。
「今度はＢＬな夢が見たいなあ」

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