ある夢の中のできごと｜リアクション

ある夢の中のできごと

　愛猫萌々子は窓も家具もない真っ白な部屋にいた。とても現実のものとは思えなくて、なんとなく夢だと察する。
　どうすればいいのかと思った途端、空中にふわふわと浮くカメラが現れる。なぜカメラがここにあるのかと思う間もなく聞こえる、パシャッという音。そして一瞬間の眩むような光。写真を撮られたらしい。
　その場で現像されて出てきたのは、驚いた萌々子の姿、ではなかった。なぜか萌々子の中学校の入学式の写真だった。家族４人揃っていて、少し緊張した面持ちの萌々子が写っている。
（違う）
　萌々子は記憶と合わない写真を否定する。中学校に入学したときには、母はもう病気で亡くなっていた。それが原因で父と対立した兄は、家を出て行っているはずなのだ。また記憶に合わない写真が出てくる。
　家族で海に行っている写真。兄と萌々子が割ったスイカを美味しそうに食べている。
　誕生日にケーキを焼いている写真。母がオーブンの扉越しに焼き加減を見ている隣で、わくわくしながら萌々子もケーキを見つめている。
　寝子高の合格通知を持って、母と喜び合う写真。母は萌々子を抱きしめて頭を撫でてくれている。
　次々と出てくる写真はどれも実現しなかったことばかりだ。ポラロイドカメラから出た写真が、真っ白な部屋の真っ白な床にばら撒かれていく。
「やめて！　もう、やめてください……」
　絶対に叶わないものを見せられても辛いばかりだ。しかし宙に浮くカメラを払いのけても、出てくる写真は止まらない。止まらないまま写真は水のようにどんどん溜まり、いつのまにか胸の高さまできていた。必死にもがいても動けない。とうとう頭まで写真に埋もれてしまった。
　何も見えない真っ暗な中で、紙の擦れる音だけが聞こえる。カメラがまだ写真を出し続けているのだろう。
（これはきっと私の中の未練なんでしょう、「普通の家族」でなかったことへの……）

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