【水泳大会】男が女で女が男で？！（あとカワウソとフツウ）｜リアクション

【水泳大会】男が女で女が男で？！（あとカワウソとフツウ）

　きっちりと水泳帽を被り、ゴーグルを装着した莉鳥は、深呼吸を１つすると周りの音に耳を澄ませる。
（そろそろ合図がある筈）
　傍らの蒼と遠海もまた、真剣な表情で合図を待っている。

　――パーンッ！

　一斉に綺麗なフォームで飛び込む選手たち。水面へ浮かび上がるや否や、見事なバタフライを披露する。
（徐々に加速していこう。急にスピードを上げても身体が参るだけね）
　莉鳥は慎重な泳ぎで機会を伺っている。一方の遠海は猛然とした泳ぎっぷりでトップに立っている。元々遠海は泳ぎをそれほど得意としていない。だが、腹の底で燃えてしまったコンプレックスと嫉妬を泳力に昇華して進んでいた。
（水泳ではむしろ《ちっぱい》こそ最強！　《ちっぱい》こそ勝利の鍵なのよっ！）
　その少し後ろあたりに蒼はいた。最初は体力を温存し、ターン後の２５ｍで勝負をつける作戦だ。彼女は図らずも莉鳥と同じ作戦を取っていたのだ。
（同じ作戦を取る人も、やっぱりいるよね）
　影からそう判断した蒼は、勝負はターンで決まるかもしれない、と考えた。綺麗なターンを決めれば……！

　それは、その後しばらく語り草となる一戦。

　遠海、蒼、莉鳥の順でターンすると、三者ともにスパートをかけてきた。
（ここからが勝負所！）
（綺麗にターンできて加速できてる！　このままいける！）
　莉鳥と蒼は己の勝利を確実にするべく、全力を尽くして突き進む。遠海は自分に近づく音を耳にし、表情をより険しくする。
（まだまだ、わたしは行ける！！）
　越されようとした瞬間に加速。遠海はただひたすらゴールへと突き進む。
　そして、３人の手がゴール地点の壁に触れた……。それも、ほぼ同時に……。

「うーん……」「これは、本当に難しい判断ですね」
　幸太とメイを始めとする先生方と体育委員は映像を見ながら唸る。
　三人は、ほぼ同時にゴールしていた。放送部が撮影していた映像を頼りに、大会委員会と先生方で協議する。その間、遠海は疲れた様子でベンチに座り、莉鳥は水泳帽を取り呼吸を整え、蒼はただじっと放送席の方を見る。　
　しばらくして、幸太がマイクを片手に説明を始めた。
「この勝負だが、競技した結果……一番に手が壁に触れた仙藤が１位、２位は楡宮と椎井の同着とする！」
　発表が終わった途端、歓声が巻きおこる。一位になった蒼は弾ける笑顔で答え、惜しくも同着で２位になった莉鳥と遠海も健闘をたたえ合う。
（……うん、やっぱり水泳にこの体は有利なのかもしれない）
　なんて遠海が莉鳥と蒼をみて思ったのかは……黙っておいた方がいいかもしれない。
　ちなみに後日、遠海は水泳部から勧誘を受けることになるのだが……まだ知らない話である。
「久しぶりに、おもいっきり全力を尽くした気がするわね」
　莉鳥は髪をタオルで吹きながら、小さくもさわやかな笑みを零した（そして、その笑みにノックアウトされた男性生徒数名が救護テントに運ばれたが、まだ彼女の知らないところである）。

　ここで、一旦休憩時間が取られる。水分をよくとり、身体を休ませるように、と放送部からアナウンス。
「もう全力尽くしたから疲れちゃった……」
「ちょっと！　ここで寝るんじゃないわよ！！　熱中症になっちゃうでしょっ」
　大きなあくびをした遠海がベンチでうとうとし始めると、桜がおもいっきり突っ込む。彼女はどうにか遠海をゆすって起こそうとするがついには夢の世界へ旅立ってしまった。
「あら～、どうしました？」
　声を聴いてやってきた紫苑に、桜はちょっと泣きそうな気持を押さえつつ事情を説明する。しかし……その視界の端っこに、なぜかカワウソが見えたような気がして、首を傾げる。
（あれ？）
　彼女は目をこする。だが、次の瞬間には……目の前に広がる光景が変わってしまっていた。