理事長宅（？）でテスト勉強！｜リアクション

理事長宅（？）でテスト勉強！

〇本当にここ……？

　寝子高１年生にして４歳の娘を持つシングルマザーである梓智依子は、放課後は普段、巨大玩具店ハローニャック寝子島店でバイトをしています。
　しかしテスト勉強期間中は休みをもらいました。
「梓さん、つきあってくれてありがとう」
「どういたしまして」
　今日は理事長の家で行われる勉強会に、自分よりも年下の同級生の子たちと一緒に向かいます。
「それにしても遠いね、理事長のおうち……」
　さっきから結構な時間が経過しています。

　２年生の楡宮遠海は、筋金入りの方向音痴です。
　鎌倉在住で寝子島の地理に詳しくないという理由もありますが、まともに行ったら確実に遭難する自信がありました。
　そこで遠海が思いついた方法は、行き先が同じ人に一緒についていく、というものでした。
　これで何度も窮地を脱しています。
「えーと、こっちでいいのよね？」
　今回も同じ軽音部の子と一緒に行き、結果的に道に迷わずに済んだはず……なのですが。
「間違いないはずだけど……」
「……なんで山奥？」
　あたりはどう見ても山の中です。そして現れた建物は……
「……なんで廃墟？」

　１年の月原想花はいつものように一人つぶやいていました。
「この前の中間テストは最悪最低だった……」
　何しろ試験中に猫がすり寄ってきて全然試験どころではなかった上に、追試ではさらに散々な目に遭ったのです。
　そう心に誓って、理事長宅でのテスト勉強に赴いたのですが……。
「ここ……本当に、理事長の家？」

　校門前でビラ配りをしていた理事長に声をかけられた１年生の仙藤蒼は、ちょっと考えた末、勉強会に行ってみることにしたのですが。
「……理事長、本当にこんなところに住んでるの？」
（まるでホラーアドベンチャーゲームに出てきそうな感じの廃墟）
　と根っからのゲーマーである蒼は思うのでした。

「まさかここ？　これって……」
　案内図に従って集まった皆は唖然とし、不安そうに顔を見合わせました。
　なにせそこは森の中。
　確かに理事長宅にふさわしく大きくかつては立派だったであろう建物ですが……しかし皆の頭に一様に浮かんだ言葉は『廃墟』でした。
「ええと……単身赴任（？）だから……？」
　彰尋も驚いて、そんなことを口走りました。
（中は大丈夫なのかな？　汚れているようなら軽く片づけや掃除をしたほうがいいかな）

「本当にここで勉強会するの……？」
　不安がる同級生の子たちに、智依子は自分も不安を感じつつ、宥めるように言いました。
「大丈夫よ。だってウォルター先生もいるんだから」
　そう、そこにはいつも通りクールな表情のウォルター・B先生が立っていたのでした。
　それを見て、同級生たちもほっとしたように表情を緩めます。
「そうね、ウォルター先生がいるなら」
　ウォルター先生は、玄関の壁を吟味するように指で押し、ウィンクしました。
「強度は大丈夫なようだし、傾いてもいない。大丈夫みたいだねぇ」
　そして玄関のチャイムを押したのでした。

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