寝子島あやかし譚　鎌鼬｜リアクション

寝子島あやかし譚　鎌鼬

　三毛谷道哉は深夜の町に響き渡る凄まじい風の音に足を早めた。
「これは一体……」
　細い通り、人気が少ない場所でそれは現れた。
　走ってくるのは莉鳥。後ろから追ってくるのは風を纏うあやかし。
「これは、まさかっ」
「危ないわ、逃げて」
　莉鳥の声に道哉はとりあえず、頷いて彼女と共に走り出す。
「あれはもしかして鎌鼬かい？」
「ええ、そうよ」
「嬢ちゃん、怪我してるのか」
　足元に小さな傷が出来ている。
「不覚だったわ」
　と、薬壺を持つ妹がぬるりとした動作で近づいてくる。
「ひっひっ、さあさ、お薬を」
「二人ならろっこんでなんとかできると思うんだけど」
「薬塗りは任せな。薬塗られたらまずいんだろう？」
　莉鳥は頷いて軽く会釈をする。
「まずは連携を崩そう」
　三人は縦一列にぴったりとくっついて迫ってくる。
　道哉の相手は薬塗りの妹だ。
　懐を探る。
「まとめて転ばせてやるよぉっ」
　弟の叫び。風の刃が二人の足元へ迫る。道哉は素早く懐中電灯を取り出し、スイッチを入れて、弟を照らし出す。
「ぐお！」
　かなりの近距離だ。眩しかっただろう。
「それじゃ、頼むよ」
　道哉はその場でUターンをした。二番目に迫っていた兄に紙袋を被せ、羽織を脱ぎながら、三番目の妹を勢いよく包み込む。それから力任せに、後方へ押し戻す。
　兄弟は気づかず莉鳥を追って行く。莉鳥はそのまま横の路地へと飛び込んで行った。
「くぅ、なんなの、この布はっ」
　自分で羽織を脱いだ妹、誰もいなくなった通りにぽつんと一人。いるのは街路樹の陰からこちらを見ている猫のみ。
「なんだ？　あの男は」
　と、猫から目を話した時。
「にゃあああっ」
　猫が飛びかかってきたのだ。
「ななっ！？」
　肩に乗られ、さらに顔面を引っかかれ、慌てて首根っこを捕まえようとするが、猫はするりともう片方の肩へと逃げる。
　そして、
「にゃっ」
　持っていた毒壺に猫パンチが炸裂。
「あっ」
　落下すると同時に猫も地面に着地し、先程の人間の姿へと変わる。
　道哉は毒壺を拾いながら、そのまま駆け出した。
「油断大敵だ」
　顔だけで振り返って毒壺を見せつけ、煽ってみせる。
「このっ」
　頭に血が登ったのか、風を纏った妹が迫ってくる。
　飛びかかってきたその瞬間に猫の姿へと戻り、妹の足元を抜ける。
「強い毒じゃなさそうだね」
　再び人間に戻った道哉が地面に突っ込んだ妹の頭に毒をぶちまけた。傷口がなければ、あまり影響がないだろう。苦しくはなるだろうが。
「ぎゃああっ」
　道哉は息をつく。
「さっきの嬢ちゃんは大丈夫だったかな？」
　

　莉鳥は走っていた。
　さらに飛んでくる風の刃。莉鳥は目を閉じて、指に集中する。ろっこんを使用。
（いけっ）
　後ろを水に放つ。電気が弾けて、風が相殺された。続けて放つと、
「へへ、当たんねえよ！」
　当然だ。わざと外したのだから。
　莉鳥は路地へと逃げ込む。
「はぁはぁっ」
「おいおーい、随分と余裕なさそうじゃねぇか」
　フラフラになりながら走る演出をする。
　兄弟は常に先頭を変えながら、高威力の風と小威力の風を交互に放って追いかけてくる。
「袋のネズミだぜぇ」
　その言葉に莉鳥は分かっていると呟いた。何しろ、それが狙いなのだから。
　莉鳥は目を閉じて指に集中しながら、足を止めてくるりと振り返った。　
「なっ！？」
　驚いたのは先頭の兄の方だった。巨大鎌から小威力の風を無数に繰り出した後だ。次の攻撃までタイムラグがある。
　風の刃を避け、莉鳥はろっこんを放った。
　電気が弾ける音。そして、
「ぎゃあああっ」
　兄がパタリと地面に倒れ伏す。
「くそ、兄貴っ」　
「さぁ、どうするの？」
「ぐぐぐ……こ、ここで逃げられっかああっ」
　狙いを定めず放った風は莉鳥ギリギリをすり抜けて行った。
「ちゃんと狙えば良かったのに」
　取り乱した弟に向けて、ろっこんを放った。
「うぐっ」
　背を向けて逃げ出したが、狭い路地では逃げられない。
　見事命中し、ばったりと倒れたのだった。
「……スリリングな散歩だったわ」
　夜空の月を見ながら、莉鳥はため息をついた。

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あとがき

担当マスター：高城ヒト
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現れたあやかしはいかがでしたでしょうか？
少し危険な相手でしたが、上手く追い返せて何よりです！
あやかし関係のシナリオもまた書かせて頂きたいてすね！

ご参加ありがとうございました！

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