寝子島あやかし譚　鎌鼬｜リアクション

寝子島あやかし譚　鎌鼬

　姫神絵梨菜はよそ行きのサンダルを履いて、外へと出た。
「あ、涼しー」
　日中は地獄のような暑さだったが、日が沈むに連れて風がひんやりとしてきた。吹き抜ける夜風が心地よい。
「何にしよっかなー」
　夕涼みでもと軽い気持ちで出てきたが、アイスを買いに行くことにした。
　しかし、
「っ！」
　殺気を感じて飛び退くと、地面が風の刃にえぐられる。予想外の悪意ある攻撃に絵梨奈はそのまま転んでしまった。
「やったぜ、兄貴頼むぜ！」
　はっとして顔を上げると、無数の小さな風の刃が迫っていた。
　体を起こした絵梨菜は横へ飛び退き、駆け出した。逃げではない、真正面から特攻である。
「せっかくの散歩を邪魔してくれちゃってー！」
　先頭の弟が目を瞬かせる。不意打ちは成功したようだ。しかし、弟はすぐに迎え撃つ準備をする。絵梨菜はくすっと笑ってサイドステップ。横へ飛び退いて体勢を低くすると、弟の後ろに隠れていた兄に向かって、蹴りを繰り出す。
「はあっ！」　　
「ぐえ！？」
　胴体に直撃。風を纏っているからか、かなり軽い手応え。細い路地の奥まで吹っ飛んだ。
　弟が気づいてこちらを振り返るが、
「見つけた！」
　女性の声がして振り返る。少し先の方から雪が近づいて来ていた。
「そいつは任せて！　あいつを」
　どうやら彼女も鎌鼬と対峙していたらしい。絵梨菜は頷いて、吹っ飛んだ兄の方へ駆け出した。妹に助け起こされ、逃げようとしているところだ。
「逃さないっ」
　無差別に人を襲っているのは明らかだ。か弱い一般人が襲われたらひとたまりもないだろう。
「ちっ」
　兄はこちらに向って、巨大な鎌を振り、無数の小さな風の刃を飛ばしてきた。
「！」
　余裕で避けられるが、ここはあえて、少し慌てながら避ける演技をする。
「きゃっ」
　その様子を見た兄がニタリと笑った。追加の攻撃が絵梨菜を襲う。
　風の刃を巧みに避けながら、尻もちをつく演技。
「もらったーっ」
「すぐにお薬を塗ってあげるよぉっ」
　ヒョロヒョロの妹までも調子に乗って煽ってくる。
　さらに風の刃が。絵梨菜は立ち上がりながら、ひらりとそれらを真横に交わす。
「ぎゃあっ」
　後方で弟の声がした。
「お、弟よ！」
　風の刃が雪と戦闘中の弟に命中したらしい。振り返って確認している暇はない。
　絵梨菜は駆け出した。　
「ふふっ、おばかさんだねっ★」
　ろっこんが発動する。もちろん、今日もミニスカートだ。
「暑いし人目の無い深夜だからと思って、今日の私のスカートは超ミニだからねっ。覚悟してっ！」
　慌てた様子で風の刃を向けてくる筋肉隆々の兄。
　絵梨菜は華麗に避けながら、脚力任せに高く跳躍。路地に置かれていたポリバケツを踏み台に体をひねる。
「でやあああっ！」
　かかと回し蹴り。
「ぶほっ！？」
　顔面にヒット。その時点で妹は逃げ出していた。
　絵梨菜は軸足で着地し、膝を曲げて腹のシックスパックに打撃。
「がばっ」
　兄が血走った目を見開く。
　絵梨菜はさらに数歩下がり、シンプルな金的。
「おうっ」
　そして、
「とどめー！！！」
　その場でジャンプ。足を高く上げて、
「うりゃあああ」
　脳天かかかと落としが炸裂。
白目をいて頭から倒れた兄。絵梨菜のスカートがひらりと舞った。

　雪は再び襲ってきた弟の旋風に自分の突風をぶつけて、地面を蹴る。
「なんだ！？」
　突風に乗り、一気に間合いを詰めた。
「誰がっ　半人前だーっ！」
　浮力を利用して、体を捻り、右ストレートを下から上へ。肥満の二重顎に叩き込む。
「ぶへおあ！？」
　崩れ落ちるところ、雪は弟の胸ぐらを掴むと、自分の足が地面についたところで勢いをつけて背負投げ。
「ぶっ」
　地面に叩きつけられたか鎌鼬弟はそのまま動かなくなった。
「転ばせられる気分はどうかしら……ぜぃ……それにしても重すぎよ……」

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